医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.468、469】

今回は、患者の容態確認のためのモニタの装着や設定確認について病院側の過失が認められた事案を2件ご紹介します。

No.468の裁判例では、患者側は、麻酔の過量及び執刀開始の時期についても過失がある旨主張しました。

これらについて、裁判所は、本件事故の原因については、血圧低下に伴う呼吸停止、重篤な血圧低下、迷走神経反射などの可能性があり、結局、その原因を明確に特定することはできないと判示した上で、若年者に対する投与量としての決まった基準があるわけではなく、実際に臨床の場では成人と同様の量が投与されている例も多く見受けられ、また、本件事故の原因は高位麻酔と特定することはできないとして、麻酔薬の投与量が過大であったとの患者側の主張を採用しませんでした。

また、麻酔薬注入後15分位してから手術を開始すべきであると多数の文献で指摘され、麻酔薬注入直後に手術を開始した場合に麻酔事故が多いことも指摘されているが、その理由とするところは、手術が始まるとそちらの方に注意が集中して十分な麻酔管理ができず、何か異常が起こった場合に適切に対処することが困難となるために、麻酔高がある程度安定するまでは手術を開始しない方がよいという点にあると判示し、本件では、執刀医が手術に集中していても十分な麻酔管理ができるように人員が配置されていたのであり、また、本件事故は麻酔薬注入後19分後位に生じていることからすると、本件事故につき、麻酔薬注入5分後に執刀を開始したこと自体をもって直ちに病院に過失があったとはいい難いと判示して、患者側の主張を採用しませんでした。

No.469の裁判例では、モニタ及び管理システムの製造・販売事業者も被告となりました。病院側は、患者のベッドサイドモニタのアラーム設定がOFFに上書きされたのは、医療機器に仕様設計上又は指示・警告上の欠陥等があったからであり、病院側に責任はないと主張しました。

しかし、裁判所は、本件各仕様は、転床前後でアラーム等の設定値に変更がない場合が多いことを想定し、従前の設定をそのまま引き継ぐことを基本として、変更が必要であれば転床操作後に行えば足りるという考え方に基づいて採用されていると推認されるところ、その考え方が不合理であるとか、通常有すべき安全性を欠くと認めるべき根拠はないし、転床のたびに上書きの有無について確認又は選択することは、かえって混乱を招きかねず、効率性を妨げる可能性もあるから、本件各仕様が仕様設計上の欠陥等に当たるとは認められないと判示し、さらに、取扱説明書において、床移動機能によって移動元の設定内容が移動先に上書きされること、その場合の注意点として、移動先の全ての設定内容が書き替えられることが記載されていたなどと指摘して、製造・販売事業者の責任を否定しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2022年12月 9日
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