医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.298、299】

今回は、アレルギーのある患者に対する薬剤投与に関して、病院側の過失を認めた裁判例を2件ご紹介します。

No.298の事案では、医師は、患者がかつて他院で減感作療法を受けていたこと及びその時にはショック症状を呈していなかったことを知っていたことから、閾値を検査して初回投与量及び濃度を決定する必要はないと判断したので、ショック症状について予見可能性がなかった旨主張しました。しかし、裁判所は、減感作療法における適量には個人差が激しいものであるから、医師の主張が成り立つためには、医師が、他院での患者に対する投与期間、投与回数、投与量などを熟知しており、それを考慮にいれて投与量を定めたことが前提となるべきところ、本件の医師は、それらのことを全く知らず、患者に尋ねることさえしていないと指摘して、医師の主張を採用しませんでした。なお、判決では「アナフェラシー」と表記されている箇所は「アナフィラキシー」に変えています。

No.299の判例紹介にあたっては、判例タイムズ1169号158頁の解説も参考にしました。

この事案では、原審裁判所は、従前から投与していた抗生剤の一部を変更したものにすぎず、それまでの抗生剤の投与によって患者に異常が現れた形跡がなかったこと、本件各薬剤の投与によってショックが発症する確率は極めて低かったこと、本件病院においては、夜間に当直の医師及び看護師を複数配置していたことを考慮すると、本件各薬剤の投与に際して、医師または看護師が患者に付き添って経過観察を行うべき注意義務があったとまではいえないとして、医師らの過失を否定しました。しかし、最高裁判所は医師に注意義務違反の過失があるとして、原審判決を破棄しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2015年11月10日
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