医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.142、143】

今回は、患者側が検査や治療を拒否した後に死亡した事案で、遺族から病院側への請求が認められなかった判決を2件ご紹介します。

No.142の事案では、病院側は遺族に対して治療費の請求をしています(判決紹介の中では治療費請求の部分は割愛しています)。そして、遺族からの損害賠償請求の訴えが「本訴」で、病院からの治療費請求の訴えが「反訴」として、同じ裁判所での一つの判決の中で判断されています。

治療費請求の法的根拠として、病院側は「事務管理」を主張しましたが、判決は、救急隊からの患者受け入れ要請であったとしても患者の同意のもとに医療行為を開始したのであるから「診療契約」が成立していると判断しました。

事務管理による費用請求権は時効期間が10年間ですが、診療に関する費用請求権は時効期間が3年間です。そして、患者の相続人は時効による請求権の消滅を主張(これを法律上の用語で「援用」といいます)しましたので、裁判所は治療費の請求権は3年の時効にかかって消滅したと判断しました。

つまり、この事案では、損害賠償の本訴請求も棄却され、治療費請求の反訴請求も棄却されたわけです。

No.143の事案では、遺族は、患者の前立腺癌の再燃が疑われた時点で、医師が患者が拒否した治療薬以外の他の抗癌剤による治療を説明すべきであったという主張もしています。しかし、裁判所は、患者が本来の治療法を拒否していた理由が、治療薬の副作用である勃起障害を避けたいということであり、他に選択しうる治療薬についても同様の副作用があることが認められることや、再燃前立腺癌に対する内分泌療法に際して、過半数の医師が副作用や外来治療の可否といったQOL(生活の質)を重視しているというアンケート結果があることなどを挙げて、副作用を懸念して本来の治療を拒否していた患者に対して、同様の副作用を有する他の抗癌剤による治療法について説明をしなかったからといって説明義務違反とはいえないと判示しました。

どちらの事案も、患者の自己決定権を重視している判決といえ、実務上参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2009年5月 8日
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