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No.285「椎弓切除術及び椎間板切除術を受けた患者に椎体のすべりが生じたが、国立病院の医師が適切な時期に脊椎固定術を施さなかったことにより、患者に歩行障害等の後遺症が生じたとして、病院側の過失が認められた高裁判決」

名古屋高等裁判所金沢支部 平成23年11月30日判決 判例時報2143号92頁

(争点)

  1. 適切な時期に固定術を実施すべき注意義務違反の有無
  2. 損害

 

(事案)

平成13年4月10日、患者X(平成16年9月の症状固定時で70歳の女性)は、Y国立大学法人が開設するY病院(以下、Y病院という)でO医師(脊髄脊柱疾患についての専門医でXの診療を担当)による椎弓切除術及び椎間板切除術(以下、本件手術)を受けた。

Xの右前脛骨筋の筋力テストの数値は、平成13年4月11日が4、同月13日が4、同月29日が4、同年5月14日が5、同月19日が5、同月23日が5、同年6月4日が5であった。また、レントゲン検査の結果から、Xの第三腰椎のすべり距離及び後方傾斜角度は、それぞれ、4月17日が4㎜/14度、同月24日が5㎜/21度、同年5月8日が5㎜/22度、同月22日が6㎜/24度、同年6月11日が6㎜/24度、同月26日が9㎜/28度であった。

Xは、外来通院をしていた同年7月から10月にかけて、しびれ感や臀部の痛みを訴え、また、本件手術前と比べて筋力低下の所見が見られた。

Xは、同年11月21日、O医師の診察を受け、「進歩なし」との診断がされ、同年12月13日に腰椎MRI検査を行い、同月19日に診察をすることとした。

ところが、Xは、同月13日には痛みのためMRI検査を受けず、同月19日にO医師の診察を受けた。この診察において、Xは、左臀部痛と両側下腹部痛を訴え、O医師は、Xの痛みがひどく、症状が相当悪化しているものと感じたが、同日には特段の検査をせず、平成14年1月16日の次回の診察においてレントゲン検査をすることとした。

その後、Xは、N病院において脊椎固定術(以下、固定術)等の手術を受けたが、神経麻痺は軽快せず、歩行障害等の後遺障害(以下、本件後遺障害)を負った。

Xは、Yに対し、Yは本件手術の際、金属等による固定術を併用すべきであり、また、仮に固定術を併用しなかったとしても、本件手術後に適切な経過観察を行い、遅くとも、同年6月26日までには、固定術を行うべきであったにもかかわらずこれを行わなかったとし、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を求めた。

原審は、Xの請求を一部認容したところ、Yが控訴を提起し、Xも、原審の判断には不服はないが、損害として、将来の介護費用及びこれに対する弁護士費用相当額の損害の一部の請求を追加するために附帯控訴を提起した。

 

(損害賠償請求)

原審における患者の請求額 : 6728万7650円(内訳不明)

控訴審における患者の請求額 : 4526万0810円(原審認容額3526万0810円に1000万円を追加し附帯控訴)
(内訳(追加分):将来介護費用2827万3995円+弁護士費用282万円の合計額のうちの1000万円)

 

(判決による認容額)

原審(富山地裁平成22年10月13日判決)の認容額 : 3526万0810円(内訳不明)

控訴裁判所の認容額 : 4222万0676円
(内訳:原審認容額3526万0810円+将来介護費用632万9866円+弁護士費用63万円)

 

(裁判所の判断)

1.適切な時期に固定術を実施すべき注意義務違反の有無

この点につき、裁判所は、Xの第三腰椎のすべり距離は、本件手術前は3㎜であったのが、同年6月26日は9㎜にも増大し、第三腰椎の後方傾斜角度も15度から28度に増大しているところ、Xは、本件手術により、椎弓及び椎間板が切除され、腰椎の不安定性が増していたものと認められる上に、Xの第三腰椎は同年6月26日の時点では、相当程度圧潰しており、すべりやすくなっているものと認められることから、このまま、固定術を実施しなければ、更にすべりが大きくなり、馬尾を強く圧迫し、神経麻痺の障害をもたらす危険性があるというべきであると判示しました。

しかるところ、O医師は、脊髄脊柱疾患についての専門医であり、Xの診療を担当し、本件手術をし、その後も、Xの診療に当たり、平成13年6月26日のレントゲン検査の結果も見ていると指摘した上で、O医師には、同月26日に実施されたレントゲン検査を踏まえ、固定術の実施を決定すべき注意義務があったというべきであり、それにもかかわらず、O医師は、上記の時点では、固定術は必要ないと考え、固定術を実施することの決定をしなかったのであるから、同医師には、上記の注意義務違反が認められると判断しました。

2.損害

裁判所は、Xは、自力歩行は不可能であり、車いすでの生活を送っていること、外出は夫(平成16年9月のXの症状固定時で73歳)の助けを得て行っていること、上半身には麻痺がなく、飲食や排泄等の身の回りのことは概ね独力でできるが、入浴は独力ではできず、現在は夫の助けを借りて入浴しているとして、Xは、入浴や外出の際に介護が必要であると認定しました。

そして、Xの介護は夫が生存中は夫によることが可能であると解され、その費用は一日あたり1000円が相当であり、夫が死亡した後は、職業介護人による介護が必要となり、その費用は一日あたり3000円が相当であると判示しました。

その上で、裁判所は、Xの症状固定時におけるXの平均余命は18年、夫の平均余命は12年であるから、Xの介護費用は、

夫による介護の期間:323万5068円(1000円×365日×8.8632(12年のライプニッツ係数))

職業介護人による介護の期間:309万4798円(3000円×365日×(11.6895(18年のライプニッツ係数)-8.8632(12年のライプニッツ係数)1円以下切り捨て))

合計で632万9866円が相当とし、これについての弁護士費用としては63万円が相当と判示しました。

以上により、裁判所は、上記認容額の限度においてXの請求を一部認容し、Yの控訴を棄却しました。その後、判決は確定しました。

カテゴリ: 2015年4月10日
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