医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.238、239】

今回は、手術後の気道確保につき、医師の過失が認められた判決を2件ご紹介します。

No.238の事案では、術後の患者のパルスオキシメーターによる酸素飽和度の数値(SpO2)等に関してはパルスオキシメーターから、直接印字した形式では保存されておらず、後日作成された3種類の書面が存在しました。裁判所は、麻酔医が抜管後の処置の最中に走り書きしていたメモに基づいて、手術の翌日に作成した手書きの書面を重視し、手術の翌々日ころ、麻酔医が執刀医と話をして記憶を喚起しながらより詳しく記載したものをワープロ打ちした書面や、病院が患者遺族に交付した書面(麻酔医が作成したものではなく、作成後に内容を確認したもの)については、その記載内容を採用しませんでした。

No.239の事案では、病院側は、本件について、血液誤嚥、窒息による致命的な病態が出現する危険性が高い極めて緊急的な状態で、一刻も早い挿管による気道確保が必要であるところ、意識下挿管は、患者の協力を要して時間がかかり、また、気道刺激による疼痛や血圧上昇の発生などのデメリットが大きく第一選択であったとはいえないと主張しました。しかし裁判所は、迅速導入法と意識下挿管のそれぞれに要する時間に関する医学的知見を示す証拠は見当たらないこと、迅速導入法の方が早く挿管できるのだとしても、鑑定結果によれば迅速導入法を実施することによっても血液誤嚥、窒息の危険性が高まるというのであるから、挿管に時間がかかれば誤嚥、窒息の危険が高まるということを理由にして、同様に誤嚥、窒息の危険が高まる迅速導入法を選択したことを直ちに正当化することはできないと判示し、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2013年5月22日
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