医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.406、407】

今回は、手術後の処置・管理につき病院側の過失が認められた判決を2件ご紹介します。

No.406の事案では、患者遺族は、病院が脳腫瘍(髄芽腫)に罹患した患者(三歳児)に化学療法としてカルボプラチン単剤を投与して、補助療法を施さなかった点にも過失があると主張しました。

しかし、裁判所は、カルボプラチンは、髄芽腫治療の化学療法として有効であるとの報告があること、髄芽腫の治療方法としては、手術により可能なだけ腫瘍量を減じた後、放射線療法と化学療法を併用する方法があるが、放射線療法の小児に対する影響(放射線照射による成長後の脳機能低下が著しい)を考慮して、三歳以下の症例には、補助療法としては、放射線療法を避け、化学療法のみを行うことも十分考えられるところであり、またカルボプラチン単剤療法によっても、患者の小脳虫部の腫瘍が減少する等の効果があったことが認められるから、補助療法として、カルボプラチン単剤を投与したことをもって、病院に過失があったということはできない等として、カルボプラチン投与に関して病院に過失があったとの患者遺族の主張を採用しませんでした。

No.407の紹介にあたっては、一審判決(福岡地裁平成27年6月25日判決・判例時報2428号16頁)も参考にしました。

No.407の事案では、患者側は手術の執刀医に対しても適切な術後管理を怠った過失があると主張しましたが、裁判所は、執刀医は手術の術後管理を3名の主治医に委ねており、病院の医療体制として、執刀医において術後管理に係る指示内容を最終的に決定するものとされてはいなかったところ、3名の主治医は手術にも助手として立ち会い、患者の出血の状況等も把握していたこと、3名のうち少なくとも1名は相当の経験を有する医師であり、同人を含む医師3名によって術後管理が行われるというものであったことに加え、指示すべき内容は出血性ショックを念頭に置いた場合、高度に専門的な内容とは認められないことに鑑みれば、執刀医が自ら術後管理を行わず、主治医3名に術後管理を委ねたことが法的義務に反するとまで認めがたいとして、執刀医の責任を否定しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2020年5月12日
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