医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.422、423】

今回は、乳がんの診断・治療に関して病院側の過失が認められた事例を2件ご紹介します。

No.422の事案では、裁判所は、担当医師が骨転移のみを念頭におき、他の再発型式を全く考えず、骨シンチの結果により骨転移が否定されると過育症を疑い、胸部の腫瘤が明らかになった時点においても生検を実施せず、約2ヶ月にわたり、整形外科医に見当はずれともいうべき過育症の治療を実施させ、腫瘤がおおきくなり、それが自潰して血液等が流出し、肺や肝臓への遠隔転移も明らかに認められるという、もはや手遅れの状態に至ったときまで乳がんの再発を看過したものであって、これは医師に対する信頼の点から軽視することはできないと判示しました。そして、この過失により患者が失望感、怒り、心残り等の感情を味わったであろうことは容易に推察されるとして、慰謝料算定において斟酌する事情としました。

No.423の事案では、病院側は、患者は部分切除が可能であったにも拘わらず、局所再発をおそれて全部切除を選択したのであり、仮に、本件診察当時(切除手術の約2年前)に乳がんが発見されていたとしても同様に全部切除を選んだ可能性が高いから、当初の診察当時に精密検査を怠った医師の過失と乳房全部切除との間には相当因果関係はない旨主張しました。

裁判所は、乳房温存療法ガイドラインによれば、患者の右胸乳がんは、実際の切除時点においても患者が希望すれば乳房温存療法によることも可能であったことが認められるとしつつも、乳房温存療法ガイドラインが「患者の希望」を適応要件として掲げている趣旨は、乳房温存療法には局所再発のリスクが伴うことにかんがみ、患者自身が医師から手術の概要、リスク等について十分な説明を受け、認識した上で、自己決定権に基づき乳房温存療法を選ぶか否かを選択することができるようにすることにあると解されるところ、手術時の患者の乳がんは28mm×17mm×16mmであって乳房温存療法ガイドラインの適応基準である、腫瘤の大きさが3cm以下の上限に近接していたのであり、患者が本件手術時に乳房温存療法を選択しなかったからといって、直ちに本件診察当時も同様の判断をしたとはいえない等として、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2021年1月 8日
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