今回は、看護師による針の穿刺における過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.524の事案では、後遺障害の程度や心因性の傷害による素因減額の有無も争点となりました。この点につき、裁判所は、CRPSは多様な症状を呈することがあり、その機序はなお明らかにされていないことを考慮に入れても、控訴人の疼痛の自覚症状には必ずしも十分に他覚的所見の裏付けがあるとは言えず、その疼痛やしびれ等についても、ある程度右腕の筋肉を使用しうる程度のものであると推認することができるから、後遺障害の程度が重いということはできない。加えて、控訴人の供述内容をみると、記憶を具体的に述べる部分とそうでない部分とが混在し、誇張ないし修飾や関係者の発言による影響を受けたことがうかがわれる記述もあることが認められ、このことからすると、控訴人の自覚症状には心因的要素が影響を与えている可能性も否定することができない等と判示しました。他方、素因減額について、被控訴人らの指摘する事情については、後遺障害の程度を評価するに当たって事情としてすでに考慮されているから、これに加えて素因減額を認める必要はないと判断しました。
No.525の紹介にあたっては、一審判決(静岡地裁平成28年3月24日判決)も参照しました。
同事案でも、病院側は素因減額を主張しました。
しかし、控訴審裁判所は、患者に本件穿刺行為以前に心理的脆弱性が窺われるような既往症等があったとは認められない、患者の過去の手術や本件穿刺行為当時に患っていた甲状腺乳頭がんのCRPSに対する影響については立証されていない、医師らが精神科の受診を勧めた等の事情があったからといって、患者の心理的脆弱性が一般の個体差の範囲を超えるものであったとは断定できないことなどを踏まえると、患者の生じた症状が加害行為にのみによって通常発生する程度、範囲を超えるものに当たり、その損害の拡大について患者の心因的要因が寄与しているなどということはできないとして、素因減額の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。