医療判決紹介:最新記事

2004年の記事一覧

2004年12月14日
選択の視点【No.36、37】

今回は、「がん告知」に関する判決を2件ご紹介いたします。 「がん告知」、とりわけ進行性末期がんのように、「死」に近い病名の告知について、旧来の判例は、「医師の裁量」を広く認める傾向にありましたが、次第に「患者の自己決定権」を重視するようになりました。 そして、今回ご紹介するNo.36の最高裁判所判決...

2004年12月14日
No.37「人間ドックの健康診断で癌の可能性説明せず。病院の過失を認める地裁判決」

平成15年3月13日東京地方裁判所判決 損害賠償請求事件 (争点) 病院が人間ドックに関する契約上の義務(癌の可能性についての説明等)を果たしたか 患者の死亡とF病院の債務不履行との間に因果関係があるか 損害額 (事案) 患者G(当時74歳の男性。27歳ころ肺結核を患い、片肺を手術により切除していた...

2004年12月14日
No.36「末期がん患者につき家族への告知をしなかったことが医師の診療契約に付随する義務違反とする最高裁判決」

平成14年9月24日最高裁第三小法廷判決(判例時報1803号28頁) (争点) 高齢の患者本人に末期がんであると告知するのは適当でないと考えていた医師に、連絡が容易な患者の家族に対して告知する義務があったか否か (事案) 主に成人病に関する諸疾患の調査及び診断・治療を行うことを目的とする財団法人Y ...

2004年11月26日
選択の視点【No.34、35】

今回は、医薬品の添付文書の記載と、投与した医師の注意義務との関係が争点となった判決を2件ご紹介します。 なお、No.34判決の紹介にあたっては、一審判決(広島地方裁判所平成5年9月20日・判例時報1527号128頁)も参考にしました。 これらの判決に先立つ、最高裁判所平成8年1月23日判決は、「医薬...

2004年11月26日
No.35「国立大学医学部付属病院耳鼻咽喉科で耳の治療を受けた患者が点耳薬の副作用により難聴。医師に添付文書記載の注意事項を守る義務違反等の過失ありとの地裁判決」

平成15年4月22日福岡地方裁判所判決(損害賠償請求事件)判例時報1837号87頁 (争点) リンデロンA液の投与を選択したことが医師の裁量を逸脱しているか Xの難聴の原因はリンデロンA液の投与によるものか リンデロンA液の投与にあたっての、Y病院医師らの注意義務違反の有無 (事案) X(難聴になっ...

2004年11月26日
No.34「薬剤添付文書記載の副作用が発症して患者失明。薬剤を投与した医師の過失を否定した高裁判決を、最高裁判所が破棄差戻。」

平成14年11月8日最高裁判所第二小法廷判決 (損害賠償請求事件)判例時報1809号30頁 (争点) 薬剤添付文書記載の副作用と疑われる過敏症状の発症が認められた患者に対して、医師が向精神薬を投与する場合の注意義務 (事案) 患者X(昭和42年生)は、Y1医師が開業し、妻のY2医師と2名で常勤する精...

2004年10月26日
選択の視点【No.32、33】

今回は、代替的治療法についての医師の説明義務が争点となった判決を2件ご紹介します。 No.32は、乳がんの手術(乳房切除)にあたり、当時医療水準として未確立であった乳房温存療法について医師の知る範囲で説明すべき義務があるとした最高裁判所判決(判例時報1769号56頁)です。その後この最高裁判決によっ...

2004年10月26日
No.33「患者が子宮温存の希望の有無を表明していない場合でも、平成3年当時の最善の治療法である子宮摘出手術だけでなく、子宮温存の代替的治療法の説明義務ありとした高裁判決」

平成14年9月27日福岡高等裁判所判決 (訟務月報49巻6号1666頁) (争点) 担当医師らの説明義務違反の有無 説明義務違反が認められる場合の慰謝料 (事案) 昭和32年生まれの女性患者X(既婚・女児2名出産)は、平成3年にC産婦人科医院で検診を受けたところ、子宮頸部の上皮内癌と診断され、国立Y...

2004年10月26日
No.32「乳がん手術にあたり、平成3年当時未確立の乳房温存療法についても医師の説明義務を認めた最高裁判決」

最高裁判所第三小法廷 平成13年11月27日判決(判例時報1769号56頁) (争点) 医師が乳がん患者に対して乳房切除術を行うにあたり、平成3年当時医療水準として未確立であった乳房温存療法についてまで選択可能な他の治療法として説明義務を負うか 説明義務を負う場合の説明義務の程度 (事案) 昭和23...

2004年9月30日
選択の視点【No.30、31】

今回は、交通事故と医療事故とが重なった場合についての、最高裁判所の判決(No.30)および、富山地方裁判所の判決(NO.31)をご紹介します。とりわけ、最高裁判所の判決(No.30)は判例として大きな意味を持っていると思われます。なお、No.30の判決紹介にあたり、最高裁判所のホームページや、判例時...

2004年9月30日
No.31「交通事故での入院中に被害者が死亡し、事故と医療過誤が競合した遺族の請求に対し、判決は病院の過失を否定し、交通事故加害者の損害賠償の範囲を限定した」

富山地方裁判所平成13年11月28日判決 損害賠償請求事件(判例タイムズ1133号178頁) (争点) 病院の過失の有無 賠償責任の範囲及び金額 (事案) 平成7年9月12日午前6時25分頃、A(男性、死亡時75歳)が、自宅前路上でY運転の自動車に衝突され、Aは同日T県立中央病院(T病院)に搬入され...

2004年9月30日
No.30「交通事故と医療過誤の競合事案についての最高裁判決」

H13年3月13日 最高裁判所第三小法廷判決 損害賠償請求事件(判例時報1747号87頁) (争点) 運転手の過失、被害者の過失、医師の過失、被害者両親の過失の有無 交通事故と医療過誤が競合し、運転行為と医療行為とが共同不法行為に該当する場合に、各不法行為者が責任を負うべき損害額を、被害者の被った損...

2004年8月25日
選択の視点【No.28、29】

今回は、未熟児網膜症事件の判決をご紹介して、「医療水準」に関する裁判所の考え方をみていきたいと思います。なお、未熟児網膜症事件に関しては、多数の訴訟が提起され、最高裁判所の判決も複数出ていますが、今回ご紹介するのは、そのうち、平成7年6月9日の最高裁判所判決(No.28)と、その判決によって差戻され...

2004年8月25日
No.29「昭和49年12月に出生した未熟児が未熟児網膜症に罹患。最高裁判所で破棄差し戻しされた結果、当時の医療水準を前提として、医療機関の注意義務違反を認める高裁判決」

大阪高裁平成9年12月4日判決(判例時報1637号34頁) (争点) 未熟児網膜症の治療法としての光凝固法の有効性、安全性 医療機関に要求される注意義務としての医療水準 光凝固法に関する知見は、昭和49年当時のY病院に要求される注意義務としての医療水準であったか Y病院に注意義務違反があったかどうか...

2004年8月25日
No.28「未熟児網膜症に関する最高裁判決。医療水準についての判断基準を示す」

最高裁第二小法廷平成7年6月9日判決(判例時報1537号3頁) (争点) 診療契約上の注意義務の基準 新規の治療法が医療水準になるための判断基準 医療水準になっている新規治療法に関する医療機関の義務 本件における控訴審の判断の誤り (事案) Xは、昭和49年12月11日午後2時8分、H市内の病院にお...

2004年7月27日
選択の視点【No.26、27】

今回は、客観的にみて診断に誤りがあった事案で、「診療契約における債務不履行」責任が争点となった判例を2件ご紹介します。 訴訟において、ある事柄を証明する責任を原告側が負うのか、それとも被告側が負うのかが、判決を左右することがしばしばあります。 例えば、原告が被告に対して、貸したお金を返してほしいとい...

2004年7月27日
No.27「夜間救急患者につき、検査せず心筋梗塞を肝臓疾患と誤診し患者死亡。診療契約上の債務不履行責任を高裁が認定。遺族が逆転勝訴」

平成2年4月27日大阪高等裁判所損害賠償請求控訴事件(判例時報1391号147頁) (争点) 誤診が債務不履行となるか 本件における誤診が債務不履行に該当するか 債務不履行と死亡との因果関係 (事案) 昭和55年10月29日午後10時30分頃、患者A(男性、当時31才)が自宅において急に苦痛を訴えた...

2004年7月27日
No.26「外頸動脈海綿静脈洞瘻を内頸動脈海綿静脈洞瘻と診断して行った手術について、当時の医療水準上、医師に注意義務違反なしとの判決」

昭和60年6月10日大阪地方裁判所 損害賠償請求事件(判例タイムズ594号92頁) (争点) 診療契約における債務不履行責任の主張立証責任 診療契約上の注意義務違反(過失)の判断基準 昭和46年6月28日当時の頸動脈海綿静脈洞瘻という疾患についての日本の医療水準 上記3の医療水準に基づく、本件医師ら...

2004年6月29日
選択の視点【No.23、24、25】

今回は、医師の過失について刑事責任が問われた裁判の判決を紹介します。 このうち、No.25(市立大学付属病院での患者取り違え事件)は、複数の看護師・医師の注意義務違反が重なって(「過失の競合」といいます)、患者が取り違えられたままそれぞれに誤った手術がなされるという結果が生じました。 そして起訴され...

2004年6月29日
No.25「市立大学付属病院での患者取り違え事件」

平成13年9月20日横浜地方裁判所判決(業務上過失傷害被告事件) (争点) 看護師D、Eの注意義務違反の有無 執刀医A、Bの注意義務違反の有無 麻酔科研修医C、麻酔科医Fの注意義務違反の有無 量刑 (事案) (1)手術室交換ホールでの患者の取り違え 市立大学医学部付属病院(本件病院)において、平成1...

2004年6月29日
No.24「妊娠月数の診断を誤り、危険な中絶手術により患者失血死。医師に有罪判決」

昭和62年6月10日東京地方裁判所判決 (業務上過失致死被告事件) (争点) 産婦人科医が妊娠月数を誤診し、危険な中絶術を選択し、出血多量により患者を死亡させた、業務上過失致死事案における注意義務(過失)の内容 量刑(禁錮1年2月、執行猶予3年)とその理由 (事案) 産婦人科医院を開設している被告人...

2004年6月29日
No.23「頸部硬膜外注射の後、局所麻酔剤反応により患者死亡。救急蘇生措置の過失を認め、医師を罰金刑とした一審の判断を控訴審も維持」

昭和58年2月22日大阪高等裁判所判決(業務上過失致死被告事件) (争点) 局所麻酔剤反応発現に対する予測可能性および発現した場合に適切な蘇生措置を講ずることによる救命可能性 介助看護師に対する事前教示義務違反の有無 救急蘇生措置の事前準備義務違反の有無 局所麻酔剤反応発現後、看護師に適切な指示をし...

2004年5月25日
選択の視点【No.21、22】

今回は、最高裁判所のホームページで紹介された高等裁判所判決の中から、一審(地裁)の判決が変更された判決をご紹介します。No.21の判決については、一審判決も参照しました。 No.21、No.22の両方の判決で共通しているのは、損害賠償額を算定する際に、「過失相殺」の法理が適用あるいは類推適用されて、...

2004年5月25日
No.22「国立大学医学部付属病院で心臓バイパス術の後、真菌性眼内炎を発症して患者が両眼失明。患者遺族の国に対する損害賠償請求を一部認容」

平成15年 2月20日 名古屋高等裁判所判決(損害賠償請求事件) (争点) 患者の視力障害等に関する訴え・兆候を見落とし、早期に適切な治療行為を行わなかった過失の有無 過失と患者の両眼失明との間の因果関係 損害 (事案) 患者Dは国立大学医学部付属病院で心臓バイパス術を受けた後、脳梗塞を発症し、さら...

2004年5月25日
No.21「糖尿病性足壊疽により左足関節部切断。病院側の過失を認定。一部過失相殺」

平成15年 1月29日 広島高等裁判所松江支部判決(損害賠償請求事件) (争点) 病院医師の注意義務違反の有無 注意義務違反と左足関節部切断との間の因果関係 過失相殺 (事案) 平成8年1月8日、原告・被控訴人である患者X(昭和10年生まれの男性)が、被告・控訴人(外科専門の診療所を開設している医療...

2004年4月30日
選択の視点【No.20】

今回は、最高裁判所のホームページで紹介された最高裁判所判決の中から、都立病院における誤薬投与による死亡事故に関連して、院長に医師法上の警察への届出義務違反という刑事責任(有罪)を認めた判決をご紹介します。事案内容については、一審、二審の判決も参照しました。 この死亡事故については、刑事上も民事上も多...

2004年4月30日
No.20「看護師の誤薬投与による死亡事故。医師法上の警察への届出義務は合憲として、都立病院院長に対する医師法違反の有罪判決を最高裁も維持」

平成16年4月13日最高裁判所第三法廷判決(医師法違反、虚偽有印公文書作成、同行使被告事件) (争点) 医師法21条は、当該死体が自己の診療していた患者のものであるときにも、適用されるか 死体を検案して異常を認めた医師が、その死因等につき診療行為における業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場...

2004年3月30日
選択の視点【No.18、19】

今回は、最高裁判所のホームページに紹介された高等裁判所判決の中から、一審(地方裁判所)での患者側敗訴判決が変更されて、 患者側の請求が一部認められたものを選びました。 このうち、No.19の札幌高等裁判所の判決は、ニュースなどでも話題になりましたが、この判決の中で、「除斥期間」という普段馴染みのない...

2004年3月30日
No.19 「B型肝炎罹患原因が集団予防接種との高裁判断。国に対する慰謝料請求認容」

平成16年1月16日札幌高等裁判所判決 (争点) B型肝炎感染と本件各集団予防接種との因果関係 国の予見可能性 国の結果回避義務 損害 民法724条後段の法的性質 (事案) ABCDE(このうちDは訴訟中に死亡し、相続人である妻と子2人が訴訟を承継)は、幼少時に国の実施した予防接種を受けた。 その後...

2004年3月30日
No.18 「不妊治療薬の副作用から脳梗塞、高裁で医師の過失を認定」

平成15年6月27日広島高等裁判所(損害賠償請求控訴事件) (争点) HCG製剤を追加使用したことが過失にあたるか 医師に検査を十分にしなかった過失があるか 平成7年4月3日時点で入院治療をしなかったことが過失にあたるか (事案) 本件患者(医療事故当時32歳の主婦)は、Aの設置・経営する社会保険A...

2004年2月27日
選択の視点【No.16、17】

(1)最高裁判所のホームページで紹介されている判決から、今回は「死亡した癌患者の延命の可能性」が争点となっている最高裁判決と高等裁判所判決を選びました。 (2)前回ご紹介したNo.14の最高裁判決と、今回ご紹介するNo.17の最高裁判決の両方が、平成12年9月22日の最高裁判決を引用しています。そこ...

2004年2月27日
No.17「スキルス胃癌死亡患者について、内視鏡検査を実施した医師が適切な再検査を行えば、延命の相当程度の可能性があったと判断。最高裁が1,2審判決を破棄」

平成16年1月15日 最高裁判所第一小法廷判決 (争点) 本件検査時点でスキルス胃癌との診断がされ、これに対する化学療法が開始されていたとすれば、患者が死亡した時点においてなお生存していた「相当程度の可能性」があったか (事案) 患者A(昭和43年生まれの女性)は、平成11年6月30日及び同年7月1...

2004年2月27日
No.16「肺癌確定診断のための検査を怠った県立がんセンター担当医師と県に対し、癌死亡患者の延命の可能性を奪ったことの責任を認めた一審判決を高裁も維持」

平成15年11月5日 名古屋高等裁判所判決 (争点) 平成6年9月の段階でA医師が肺癌と診断せず、経過観察にしたことに過失があったか 平成7年2月の段階でA医師が再度の気管支鏡検査や開胸肺生検等の検査をせずに経過観察としたことに過失があったか 上記1,2の段階でA医師に説明義務違反があったか A医師...

2004年1月28日
選択の視点【No.14、15】

今回は、最高裁判所のホームページで紹介された、最高裁判所の判決(上告審判決)からご紹介します。 一審、控訴審と異なり、上告審では控訴審の原判決が適法に認定した事実を前提として、控訴審の法律判断について審理します。 最高裁判所が上告審となるのが原則ですが、この場合、上告理由は憲法違反や重大な手続法違反...

2004年1月28日
No.15 「気管内挿管の抜管後の気道確保について医師の過失を認定。高裁判決を破棄」

平成15年11月14日 最高裁判所第二小法廷判決 (争点) 担当医師に気管内挿管の抜管後、胸くうドレーンの逆流が生じた時点で再挿管などの気道確保のための適切な処置をとるべき注意義務を怠った過失があったか (事案) 患者Bは被上告人が開設した本件病院Aで食道がんの診断を受け、平成6年12月12日から1...

2004年1月28日
No.14 「開業医に転送義務違反を認定。急性脳症患者の請求を棄却した高裁判決を最高裁判所が破棄差戻し」

平成15年11月11日 最高裁判所第三小法廷判決 (争点) 開業医に高度な医療を施すことのできる適切な医療機関への転送義務を怠った過失があったか 上記転送義務違反と、患者の急性脳症による後遺障害との間の因果関係が証明されなくても、転送されていれば患者に重大な後遺障害が残らなかった相当程度の可能性があ...

ページの先頭へ