医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.526、527】

今回は高齢者の褥瘡に関する裁判例を2件ご紹介します。

No.526の事案では、被告となった老人ホーム側は、入所者の死亡の原因はガス壊疽の急激な悪化によるものであり、入所者が病院へ救急搬送された後、速やかにガス壊疽との診断がされ、これに対する適切な治療が行われていれば、救命され、又は救命されたであろう高度の蓋然性があったと主張して、当該老人ホームにおける介護行為と入所者の死亡との間の因果関係を否認しました。

しかし、裁判所は、ガス壊疽は褥瘡から進展したものであって、これを敗血症(褥瘡からの細菌感染が原因で発症)とは別個の入所者の死亡の原因と解することはできないこと、病院へ救急搬送された時点の入所者の状態(敗血症を発症し、ガス壊疽まで発症している状態)からすれば、何もしなければ入所者が死亡に至ること、すなわち、当該老人ホームの介護過誤と入所者の死亡との間に相当因果関係があったことが認められるのであるから、仮にガス壊疽に対する適切な治療がされていれば入所者の救命の可能性があったとしても、上記相当因果関係が否定されたり、被告の責任が減免されたりするものではないと判示して、当該老人ホーム側の主張を採用しませんでした。

No.527の事案では、一審判決(東京地裁平成30年3月22日判決)も参考にしました。

控訴審で病院側は、6月18日の発赤発見を受けて同月20日の褥瘡回診につながったことを指摘して、医療従事者はやるべきことをやった等と主張しました。

しかし、控訴審裁判所は、6月18日から同月20日までの診療録等には、患者の仙骨部の発赤について当該病院の看護師から医師への報告事項や医師からの指示内容が記載されていないこと、同月18日に見られた患者の仙骨部の発赤について直ちに写真の撮影が行われていないことを併せ考慮すると、当該病院の医療従事者の採った対応は、当該病院自らが定めた院内マニュアル(褥瘡発見時、直ちに主治医に報告するほか、直ちに写真撮影を行うなどの記載がある。)に違反するものであるというほかなく、同日の発赤確認以降同月20日までの間に当該病院の医療従事者が患者の仙骨部の発赤について鑑別及び経過観察をすべき義務を怠った過失が認められることは原判決の説示するとおりである旨判示し、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2025年5月12日
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