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No.22「国立大学医学部付属病院で心臓バイパス術の後、真菌性眼内炎を発症して患者が両眼失明。患者遺族の国に対する損害賠償請求を一部認容」

平成15年 2月20日 名古屋高等裁判所判決(損害賠償請求事件)

(争点)

  1. 患者の視力障害等に関する訴え・兆候を見落とし、早期に適切な治療行為を行わなかった過失の有無
  2. 過失と患者の両眼失明との間の因果関係
  3. 損害

(事案)

患者Dは国立大学医学部付属病院で心臓バイパス術を受けた後、脳梗塞を発症し、さらに真菌を起炎菌として、縦隔洞炎を併発した。そして、Dは真菌性眼内炎を発症し、両眼失明に至った。Dが国に対して損害賠償請求訴訟を提起し、控訴審係属中に、Dが死亡し、相続人であるA,B,Cが訴訟を承継した。

(損害賠償請求額)

患者(遺族)の請求額 1億2306万7924円

(判決による請求認容額)

一審で認めた額 2548万3640円
二審(名古屋高等裁判所)で認めた額(遺族合計) 2705万3266円
内訳(緑字部分は甲斐弁護士による推測)
〔逸失利益7237万5518円+(後遺障害慰謝料2600万円)〕×0.25(過失相殺分)
=2459万3879円+弁護士費用245万9387円

(裁判所の判断)

患者の視力障害等に関する訴え・兆候を見落とし、早期に適切な治療行為を行わなかった過失の有無について

看護記録に『文字板をみせるが、文字がさがせない』、『意識レベルは良いが目がみにくいのだろうか?』、『自分の目を指し何か訴えようとするが理解できず』といった記載があることから、担当医師らが看護記録の記載を十分把握していれば、当時の外科医師の真菌性眼内炎に関する認識及びDの意識状態に関わりなく、眼科医の診断を通じて真菌性眼内炎の発症を認識するに至ることが可能であったと認定し、病院側の過失を認定。

過失と患者の両眼失明との間の因果関係について

病院担当医師らが10月5日ころまでにDの視力障害等に関する訴えに気づいていれば、眼科医の診察を受けさせて真菌性眼内炎を発見し、Dの全身状態の推移や副作用の発現状況に留意しながら、眼科医の助言を受けて十分に増量された抗真菌剤を全身投与する治療を実施したものと想定されると判示した。

そして、医師の不作為による権利侵害の因果関係については、ある範囲の薬剤の投与により結果発生を回避し得る高度の蓋然性を認めることができる以上、因果関係を肯定できるとして、本件において視力障害を発見すべき時点において、十分量の抗真菌剤を全身投与する治療が実施可能であり、かつ、それが両眼失明を免れる上で有効な治療であると認められるのであれば、投与すべき抗真菌剤の種類、その具体的な量及び投与期間、その治療によりDの真菌性眼内炎に関し生ずる効果が具体的に認定されなくても、因果関係を肯定できると判断した。

損害(過失相殺の法理の類推適用)

担当医師らの過失行為がなかったとしても、Dの全身状態や副作用の発現状況との兼ね合いから、眼内の黄斑部の障害を避けて十分な視力回復を得るだけの抗真菌剤を投与できなかった可能性が相当程度残るとして、Dの両眼失明の損害について、担当医師らの過失行為と過失行為以前から存在した術後合併症の疾患等とが共に寄与した可能性を排斥できないと認定。更に、重篤な術後合併症の疾患等により、Dにおいて腎機能、肝機能等が通常より低下していたことから、抗真菌剤の増量投与をした場合、副作用のため、失明ほどではないにしても腎臓や他の臓器に何らかの後遺症が残った可能性も否定できないとした。

そして、過失相殺の法理を類推適用して、D(遺族)が国に対して請求し得る損害額を、Dに生じた損害(逸失利益及び後遺障害慰謝料)の2割5分と判断した。

カテゴリ: 2004年5月25日
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