医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.196、197】

今回は薬剤の取り違えと過剰投与に関する判決を一件ずつご紹介します。

No.196の事案では、都立病院の医師や都衛生局病院事業部の職員の行為について、国家賠償法の適用があるかどうかも争点となりました。国家賠償法1条1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国または公共団体がこれを賠償する責に任ずる。」と規定しています。

裁判所は、医師の死因解明義務違反及び説明義務違反については、いずれも診療行為に付随する行為であるとして、診療契約の性質に関し国公立病院と私立病院を区別する合理的理由は見いだせないことに加え、本件において、都立病院が患者に対して私立病院と異なる国公立病院独自の医療行為を行ったという事情はうかがわれないことに照らして、国家賠償法の適用を否定して民法を適用し、医師の個人責任を肯定し、東京都には使用者として連帯責任を命じました。他方、都の職員の義務違反行為については、行政としての立場からの独自の行為であるとして、国家賠償法を適用し、東京都の損害賠償責任を認め、職員の個人責任を否定しました。なおこの事案は、刑事事件にもなっており、刑事裁判の判決については過去に本コーナーでご紹介しております(No.20 平成16年4月13日最高裁判所判決)。また、ほっと情報・ほっと商品の、「都立・広尾病院医療過誤・事件~経過報告と提言~」で刑事と民事の各裁判の概要などが整理されています。

No.197の事案では、被告とされた薬剤師3名(調剤担当の薬剤師及び調剤監査担当の薬剤師)からは、当該病院において採用されていたオーダリングシステムを信頼していたものであり、疑義照会義務を負わないとの主張がなされました。判決中で、オーダリングシステムについて、「検査・処方にかかる情報伝達システムであり、同システムにおいて、各医薬品の用量や医薬品の相互作用等のチェックを行うことで、薬剤師の調剤・監査業務の合理化に役立つとともに、投薬ミスの防止にも効果を発揮しており、平成17年当時、病床1000床クラスの病院では、オーダリングシステムが導入されていることが一般的である」と説明されています。

そして、同判決では、オーダリングシステムを導入する病院において、調剤・監査業務に関与する薬剤師等が、そのシステムの機能や具体的なチェック項目等について十分に理解し、明確な認識を持った上で、当該システムが正常に機能することを信じて業務を行い、かつ、当該システムが正常に機能する技術的担保があるなど、これが正常に機能することを信じるにつき正当な理由がある場合には、薬剤師は、同システムが正常に機能することを信頼して自らの業務を行えば足りるものと解するのが相当であると判示しつつも、本件においては、事故当時、当該病院のオーダリングシステム上1回量の設定しか行われておらず、これについて、医師及び薬剤師らの間で明確な認識は共有されておらず、薬剤師らが、同システム上いかなる項目がチェックされているかについて明確な認識をもっていたものとも認められない上、1日量の設定がされていると信じていたという点についても、設定者や病院の責任者等から明確な説明を受けているなど合理的な根拠に基づくものではなく、本件において薬剤師らがオーダリングシステムを信頼していたことにつき、正当な理由は認められないとして、薬剤師の主張を退けました。

両判決とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2011年8月 9日
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