医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.336、337】

今回は、専門医への転医(勧告)義務違反が認められた判決を2件ご紹介します。

No.336の事案では、医師は、本件初診時においては、複数の原因疾患が考えられ、これを特定することが困難であり、もし、この時点で詳細な説明をしなければならないとすれば、疑われるすべての疾患につき詳細な説明をしなければならないことになり、およそ不可能であると供述しました。しかし、裁判所は、精索捻転症と一般の胃腸炎、腸閉塞、副睾丸炎、捻転したヘルニアといったその他の疑われる疾患のうち、処置につき緊急性を要する疾患は、腸閉塞と精索捻転症であるところ、本件では、腹部レントゲン検査による所見等によって、腸閉塞の可能性は否定されていたのであるから、緊急性を要するとされるのは精索捻転症だけといえるとして、医師の上記供述を採用しませんでした。

No.337の事案の紹介にあたっては、原審判決(徳島地方裁判所平成16年10月25日判決)が紹介されている、判例時報1945号33頁以下も参照しました。

同事案では、病院側(被控訴人)は、「予後不良の疾患を有する患者に対する病名や予後の告知は、説明の方法や時期が難しいものであり、特発性間質性肺炎は、進行性で治療法のない疾患ではあるが、症例によって予後が2、3年のものから10年以上生存するものまで存在し、特に予後の告知については慎重にならざるを得ない。したがって、特発性間質性肺炎患者に対しては、少なくとも安定期には予後の説明はなされておらず、病状がある程度悪化し、予後が限られる状態になってから説明しているというのが実情であって、それが不適当なものであるとはいえない。本件の場合、第2回目の入院中も予後の推定を行うことは難しく、その後間質性肺炎の急性増悪を来し、通常はこの時点で予後についての説明がなされるものと考えられるが、上記時点で患者は大学病院を紹介されたため、被控訴人としては病状説明の機会が与えられなかった。したがって、本件では医師に説明義務違反の過失はない」旨主張しました。

しかし、裁判所は、「患者の自己決定権及びその前提となる医師から患者への情報提供という観点からみた場合、予後の不良の可能性があるか否かは患者にとって重要な情報であることが明らかであるから、説明の方法、タイミングといった問題はあるものの、少なくとも予後の不良の可能性があることは説明すべきものであり、かつそれで足りると認められる。仮に、担当医師において、患者に対し予後が不良であり、またはその可能性がある旨を告知ないし説明するのが相当でないと判断したことに相応の合理性を有するものと認められるとしても、患者の家族(控訴人)に対してまで告知ないし説明しないことを正当化すべき法的根拠を見い出すことはできない」「被控訴人の上記主張は、医療現場における臨床医の悩みを強調する余り、患者の自己決定権に対する配慮を欠くものであって、到底採用することはできない」と判示して、病院側の主張を排斥しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2017年6月 9日
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