医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.356、357】

今回は、重度の新生児仮死の状態での出生につき、病院側の責任が認められた判決を2件ご紹介します。

No.356の事案では、裁判所は、慰謝料の判断にあたり、新生児が自発呼吸もできないままに死亡時までNICU(新生児集中治療室)に入院しており、両親が我が子として手に取ることさえなく、妊娠期間よりも生存期間が短かったことを指摘し、短期間のうちにわずかな接触の機会さえもなく終わりを迎えざるを得なかった両親と新生児の無念さは想像に難くないと判示しました。他方で、地域における産婦人科医院が被告の経営する医院のみであり、被告医院においてVBAC(帝王切開後の経膣分娩)を実施しなければ地域のお産に悪影響が及ぶおそれがあると考えた動機については汲むべき事情であるとし、また、被告医師が、年間400例から500例の分娩を被告一人で取り扱い、そのような多忙な中でも産婦人科医という重責を担う被告の地域への貢献は相当なものであることについても、慰謝料の算定に当たって考慮すべき事情ではあるとしましたが、医師の過失を正当化できるものとは言い難いと判示しました。

No.357の事案では、病院側は、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の発行した「産婦人科診療ガイドライン産科編2011」につき、規範性を有するものではないと主張しましたが、裁判所は、本件ガイドラインには、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会でコンセンサスが得られた医学的知見が示されていることなどを指摘し、本件ガイドラインに沿って医師の注意義務について判断をしました。

また、慰謝料の算定にあたり、出産時の過失が原因で生じた後遺障害であることから、母親の負った精神的苦痛は特に強いとして、母親固有の慰謝料を400万円、父親固有の慰謝料を300万円と算定しました(No.356の事案では両親固有の慰謝料は同額でした)。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2018年4月 9日
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