医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.374、375】

今回は、手術に伴う麻酔に関して病院側の責任が認められた事案を2件ご紹介します。

No.374の事案では、患者遺族は、小児骨折について医師が観血的手術選択した点も過誤である旨主張しました。しかし、裁判所は、左前腕橈骨尺骨の二本が骨端において完全骨折したもので、骨端骨折には速やかな整復が求められること、骨折した二本とも数㎜程度とはいえ横転位を生じ、患者が激しい疼痛を訴えていたこと、患者(11歳)は幼児ではなく、骨折転位の自然矯正を期待しうる年齢上限に近い年齢であったことや医師が母親にレントゲン写真を示して説明し、手術承諾を得たことなどの事実によれば、医師が、骨折した骨が血管その他を傷つけるおそれがあるとともに徒手整復によっては脂肪塞栓を発症させるおそれがあるといった判断で観血的手術を選択したことが小児骨折の治療に関する臨床医学上の原則から著しく逸脱したものであるとまでは直ちに断定することはできないとして、観血的手術選択の過誤は認めませんでした。

No.375の事案では、患者は、子宮全摘出術前に患者に脊髄クモ膜下出血が起こっていたことを医師が看過した過失があるという主張もしました。

しかし、裁判所は、脊髄クモ膜下出血は腰背部痛や頭痛を伴うが、クモ膜下出血の0.4ないし0.6%とごく稀な疾患であるから脳神経外科でも生涯経験しないものもおり、まして神経疾患を扱わない診療科では、念頭にも浮かばないほど稀な疾患であり、神経専門医でない医師に(患者に生じた)腰背部痛・頭痛・下肢の痺れをみて、まっさきに脊髄クモ膜下出血を疑えというのは過度の要求であるとし、患者に脊髄クモ膜下出血が起こった時点で疾患を診断することを期待することは難きを強いるものであって、診断をしなかった医師に過失を認めることはできないと判示しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2019年1月10日
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