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選択の視点【No.454、455】

今回は特殊事情のある患者についての転送義務・他科での入院治療を検討すべき義務違反が認められた裁判例を2件ご紹介いたします。

No.454の事案では、転送義務違反と死亡との因果関係や慰謝料の額も争点となりました。

裁判所は、医師が転送義務を尽くしていれば、実際の死亡時点において患者がなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたといえるから、転送義務違反と患者の死亡との間の因果関係を肯定しました。

そして、慰謝料の算定にあたっては、患者の胃噴門部に裂傷が生じ、上部消化管出血が発生し、いわゆるマロリー・ワイス症候群であったことや、実際の転送先で治療を担当した医師も、上部消化管出血を発見できなかったことからすると、転送していたとしても、結局医療的措置が功を奏さず、早晩患者の死亡という結果が生じた可能性を排斥できないとして、その他諸事情も総合考慮して死亡慰謝料を800万円と算定しました。

No.455の事案では、裁判所は、担当医師には、(1)患者について少なくとも大腿骨近位部骨折を疑い、単純X線検査に基づく整形外科医師による診療を受けさせるべき注意義務を怠った過失及び(2)患者の診療録及び9月分の診療報酬明細書にあえて事実と異なる記載をした行為も認められるとしましたが、患者の死亡との相当因果関係は否定しました。

また、(1)及び(2)はいずれも患者の適切な医療行為を受ける期待権を侵害するものであるところ、期待権侵害のみを理由とする不法行為責任の有無の検討の余地があるのは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案に限る(最高裁平成23年2月25日第二小法廷判決参照)として、(1)については、担当医師が往診し、患者の坐位や足挙上の可否を自ら確かめるなどある程度の診察によって所見を得ていたのであるから、当該医療行為が著しく不適切なものであるとまではいえない、(2)については報酬加算事由がないのにあるかのように装うもので、診療報酬請求の在り方としては極めて不適切であるが、患者にとって有害無益な医療行為の追加や、必要不可欠な医療行為の中止、未着手ではないので、患者に対する関係で著しく不適切な医療行為とはいえないと判示し、これら(1)(2)についての不法行為責任の成立を否定しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2022年5月10日
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