今回は入院患者がベッドから転落した事案について、病院側の責任が認められた裁判例を2件ご紹介いたします。
No.536の紹介にあたっては、判例タイムズの解説も参考にしました。
同事案では、転落当時ベッドの柵が立ててあったか否かについて争いがあり、ベッド左側の柵が立ててあったとの証言がありましたが、裁判所は、当該証言は、重要な部分はほとんどが、ベッド転落を最も早く認知した看護師からの伝聞であり、聞いた内容自体も証人の単なる記憶によるというもので、看護記録等に全く残されておらず、かつ、伝聞時から供述時まで相当期間を経過している上、他にこの証言を裏付ける証拠は全くないと指摘し、さらに、柵をベッドからの転落防止のためにするのに、特に患者の身体状態を考慮すれば、柵の片側だけを立てていたというのは極めて不自然であり、この点においても当該証言は採用し難いと判示して、当該証言を採用しませんでした。そして、患者遺族が転落の数カ月前ころに撮影した写真には、患者のベッドの柵は両側とも下げられた状態のままであったこと、担当看護師による「ベッド柵立てる」との記載についても、素直に読めば、柵を全く立てていなかったところ、患者が転落したことから危険だと考えて改めて柵を立てたものと認めるべきであると判示し、患者の転落時点でベッド柵は両側とも立てられていなかったと認定しました。
No.537の事案では、病院側は、昼食介助に当たって、看護師が患者の両脇に反発性の強いクッション様の枕を1個ずつ挟むように設置するとともに、左右にもう1個ずつの枕をオーバーテーブルの脚が枕の転落を妨げる支柱の働きをするよう設置した旨主張しました。しかし、裁判所は、看護師が患者の体位を固定するために置いたクッションは、併せてオーバーテーブルが置かれた状態であることによっても、患者が床面に転落することを防止するのに有効な状態になかったと認めるのが相当であると判示して、病院側の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。