今回は、癌患者に対する標準的ではない治療法や自由診療として行われた治療法についての説明義務違反が認められた裁判例を2件ご紹介いたします。
No.538の判例紹介にあたっては、一審の東京地裁平成9年4月25日判決(判例タイムズ968号210頁)も参考にしました。
No.538の事案で、裁判所は、患者ないしその家族が、説明義務が尽くされていたならば当該化学療法を拒否し、化学療法の副作用という死因による死亡を回避した蓋然性が高いと認めるに足りる証拠もない旨指摘した上で、控訴人に生ずる損害は十分に説明を受けなかったという精神的損害のみであると認定しました。そして、控訴人らは患者の発病以来、療養看護につとめ、医師らの説明義務違反により、突然のその死亡について著しい精神的苦痛を受け、医師らに対する不信感を抱くに至ってその苦痛も増加したものと認められると判示して、患者の夫の慰謝料額を60万円、患者の子の慰謝料を1人につき30万円と認定しました。
No.539の判例紹介にあたっては、一審の宇都宮地裁令和3年11月25日判決も参考にしました。
No.539の事案で、控訴審裁判所は、患者は、本件治療を受けてから2か月後に死亡しており、末期がん患者は死亡の1、2か月前から急激に内臓機能等の全身状態が悪化するとの医師の意見に照らせば、患者について本件病院又は他の医療機関において所定の検査が行われていれば、本件自家がんワクチン療法の適応がないと判明した高度の蓋然性が認められたというべきであると判示して、検査義務違反と患者が本件治療を受けたことにより被った損害との相当因果関係を認めて、本件治療費及び適応のない治療を受けたことによる精神的損害に対する慰謝料(30万円)を損害として認めました。
更に、医師の説明義務違反により患者が正確な情報を理解した上で本件自家がんワクチン療法を受けるか否かを判断する機会を奪われたことによる精神的損害に対する慰謝料(70万円)も損害として認めました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。














