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No.87「歯周病治療で歯科医師が患者の24歯全部を大幅に削合。医師の損害賠償責任を認めた判決」

山口地方裁判所平成17年12月22日判決(判例タイムズ1223号240頁)

(争点)

  1. 説明義務違反の有無
  2. 治療の一環として、患者の24歯全部を大幅に削合したことが、不法行為に該当するか

(事案)

患者X(昭和24年生まれの女性でブティック経営者)は、Y歯科医師が開設するY歯科医院を平成14年3月1日受診した。Xは初診時の予診表に、来院理由として、虫歯の治療をしたいとの欄及び悪いところは全部なおしたいとの欄にチェックをした。Y歯科医師は、Xの歯を診察し、Xの歯のパントモ写真を撮った。そして、Y歯科医師は、Xの歯の状態について、咬合が悪く、上下の前歯部は早期接触による重度の歯周病で、臼歯部は中等度の歯周病と診断した。しかし、Y歯科医師は、歯周病の検査方法である歯周基本検査、歯周精密検査等の客観的検査は行わなかった。

その後もXはY歯科医院に通院し、平成14年4月4日、Y歯科医師はXの24歯すべてを大幅に削合するという本件処置を行った。そして、Y歯科医師は削合したXの歯に仮歯を装着した。本件処置によりXの24歯は全部について長さが短くなり、歯と歯の間にも大きな隙間ができた。その後もしばらくXはY歯科医院に通院したが、通院を中止した。そしてXは別のT歯科において、仮歯を作り直し、歯冠補綴を行ったが、そしゃく能力はかなり低下した。

(損害賠償請求額)

患者の請求額1903万5056円
(内訳:治療費183万9664円+将来の治療費177万9230円+通院交通費1万9500円+休業損害23万1333円+714万5329円+通院慰謝料82万円+後遺障害慰謝料550万円+弁護士費用170万円)

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額968万2123円
(内訳:治療費183万9664円+将来の治療費144万2459円+通院慰謝料50万円+後遺障害慰謝料500万円+弁護士費用90万円)

(裁判所の判断)

説明義務違反の有無

この点につき、裁判所は歯科医師が歯牙の削合を伴う治療を行う場合、同治療は一度実施してしまうと復元することができない不可逆的で侵襲性の高いものであるから、歯科医師はあり得る他の治療方法との対比の上で実施しようとしている治療方法の必要性や緊急性、その結果等について患者に具体的に説明し、患者において当該治療を受けるか否かについて適切な判断ができるように措置する義務があるというべきであると判示しました。

そして、本件処置について患者Xは「全く説明を受けていない」と供述し、一方のY歯科医師は、「説明はしたものの、どの程度削るかは余り説明していない、削られた歯をみせるとショックを受けるから仮歯の装着が終わるまで削合した歯は患者にみせない、患者にとっても治療内容を知らない方がよい」「本件処置が一般的な治療方法でないこともはっきりと説明していない」等と供述しており、両者の供述は異なっているものの、裁判所は、Y歯科医師の供述を前提としても、Y歯科医師は本件処置について説明義務を尽くしておらず、説明義務に違反したと認定しました。

治療の一環として、患者の24歯全部を大幅に削合したことが、不法行為に該当するか

この点につき、裁判所は、Xが受診した複数の他の歯科での診断内容やY歯科医院及び他の歯科のカルテ等から、当時、Xはごく一部の歯が中程度の歯周病に罹患していたが、残りの歯は軽度の歯周病であったにすぎないと認定しました。

そして、Y歯科医師がXの歯の咬合の状態、歯周病の程度について十分な検査等をせず重度である旨誤診し、その誤診に基づき、一般的な治療方法ではない24歯すべてを大幅に削合するという治療を行ったものであり、そのような侵襲性の高い治療を行う必要性、緊急性は認められないとして、本件処置はXに対する不法行為に該当すると判断し、Y歯科医師がXに対して、上記裁判所が認容した損害額記載の損害を賠償する義務があると判示しました。

カテゴリ: 2007年1月10日
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