医療判決紹介:最新記事

選択のポイント【No.540、541】

今回は喘息患者に対する治療における医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.540の紹介にあたっては、判例タイムズの解説も参考にしました。

No.540の事案では、医師が、患者の死因は患者の妻が消化不良の状態にある入院患者に多量のすしを食べさせたため、患者に急性胃拡張及びこれによる胸部圧迫に基づく呼吸不全と中毒症状を引き起こさせ、急激に患者の全身症状を悪化させて心不全を招いたことによると主張しました。しかし、裁判所は、当時の患者の病状によれば、到底すしを摂取し得る状況にはなかったこと、看護日誌及びカルテの記載、鑑定の結果を併せ考えると、むしろ、妻が患者にすしを食べさせた事実はないというべきであるとして、医師の主張を採用しませんでした。

No.541の事案では、病院側は、患者の脳が低酸素状態になった原因を特定することは困難であると主張しました。しかし、裁判所は、一般に脳組織が低酸素状態となる原因としては、(1)気道閉塞・呼吸停止等の呼吸不全により動脈血中の酸素が不足するため、脳組織へ十分な酸素が供給されない場合、(2)心拍(心)停止等の循環不全により必要な血液量が脳に達しない場合、(3)脳塞栓、脳血栓等の脳血流障害により脳組織に酸素が供給されない場合の3つに分類できると判示した上で、患者の心電図、診療録及び看護日誌上、患者の脳組織が低酸素状態になったころに心拍停止その他循環機能の異常を示す所見が見当たらないことなどに照らし、心拍停止等の循環不全が低酸素状態の原因であると認めることはできないと判断しました。次に、脳塞栓、脳血栓等の脳血流障害により患者の脳組織が低酸素状態となったことを積極的に裏付ける証拠がないばかりか、患者に生じた症状及び後遺症の多くは、脳血流障害の典型的症状と異なり、初期段階における昏睡状態など、脳塞栓及び脳血栓の症状としては通常考え難い症状が生じているなど、矛盾、抵触する事実が多数存在することに照らすと、患者の脳組織低酸素状態の原因を脳塞栓、脳血栓等の脳血流障害と認めることはできないと判断しました。そして、原告に生じた症状及び後遺症は、呼吸不全を原因とする脳組織低酸素状態に伴って一般に生ずる症状及び後遺症と一致すること、主治医をはじめとする多くの専門家医師の評価に照らすと、患者に生じた脳組織低酸素状態の原因は呼吸不全による動脈血低酸素状態であると認定しました。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2025年12月10日
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