医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.30、31】

今回は、交通事故と医療事故とが重なった場合についての、最高裁判所の判決(No.30)および、富山地方裁判所の判決(NO.31)をご紹介します。とりわけ、最高裁判所の判決(No.30)は判例として大きな意味を持っていると思われます。なお、No.30の判決紹介にあたり、最高裁判所のホームページや、判例時報1747号87頁で紹介されている判決文のほか、同判決の原審(控訴審)判決である、平成10年4月28日東京高裁判決(判例時報1652号75頁)も参考にしました。

共同不法行為を規定している民法719条1項は、「数人カ共同ノ不法行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ各自連帯ニテ其賠償ノ責ニ任ス共同行為者中孰レカ其損害ヲ加ヘタルカヲ知ルコト能ハサルトキ亦同シ」と規定しています。つまり、共同不法行為の場合には加害者は連帯して損害の全部について責任を負うこととなります。

交通事故の被害者の治療経過において医療ミスが起きた場合、交通事故の加害者と医療関係者の責任をどう考えるべきかについては、(1)「共同不法行為」であるから両者に全額の連帯責任を課すべきで、損害の発生・拡大についての各加害者の「寄与度」は加害者間の求償の問題であるという見解と、(2)「共同不法行為」の成立は認めつつも、それぞれの過失行為の「寄与度」によって損害の額を加害者ごとに分割すべきという見解、さらには(3)「共同不法行為」の成立を否定し、別々の不法行為として考えるべきという見解などがあります。

No.30の最高裁判決は、(1)の見解にたったものと思われます。

また、過失相殺についても、加害者甲、乙と被害者Vという事案を例にとると、これまでは、(1)甲との関係でのVの過失を乙との関係でも斟酌して過失相殺をするという見解と、(2)甲との関係でのVの過失は、乙との関係では斟酌せず、相対的に過失相殺をするという見解がありましたが、No.30の最高裁判決は、(2)の見解を示しています。

なお、No.30の事件では、遺族と病院間の訴訟について、交通事故の加害者が遺族に「補助参加」しています。「補助参加」とは、民事訴訟法42条に定められたもので、「訴訟の結果について利害関係を有する第三者は、当事者の一方を補助するため、その訴訟に参加することができる」というものです。

一般論として交通事故加害者が訴訟の結果について利害関係を有することは明らか(患者・遺族が病院や医師と一緒に交通事故加害者を訴訟の被告とすることもあり得ます)ですが、遺族側と病院側のどちらとの関係でも利害が対立する局面がありますので、どちら側へ補助参加するのが妥当であるかは悩ましい問題と思われます。

カテゴリ: 2004年9月30日
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