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No.545「救急受診した患者が帰宅後、慢性硬膜下血腫により高度意識障害等の後遺障害が残った事案で、CT検査の実施や脳神経外科医への相談をしなかった医師の注意義務違反を認めた地裁判決」

大津地方裁判所令和7年1月17日判決 医療判例解説(2025年10月号)118号47頁

(争点)

医師らに遅くとも二度目の救急受診の診察終了時までにCT検査をして脳神外科医師に相談すべき意義務があったか否か

*以下、原告を◇1および◇2、被告を△と表記する。

(事案)

C(平成31年4月30日当時77歳の女性・専業主婦)は、平成20年頃、深部静脈血栓症等により△の開設する病院(以下「△病院」という。)に入院していた。Cには、深部静脈血栓症、高血圧の既往があり、W医院にてワーファリン及び降圧薬(カンデサルタン)を処方され、服用していたが、平成31年4月25日、降圧薬がシルニジピンに変更された。

どちらの降圧薬についても、確率は低いものの、副作用として悪心、嘔気の症状が生じる場合があるとされている。

Cは、平成31年4月28日(以下、月日は、特段の断りのない限り、平成31年中を指す。)、吐き気、頭痛の症状を呈し、同日午後8時頃、△病院救急外来を受診した。

なお、Cは、頭痛発症前の全身状態は良好で、ADL(日常生活動作)は自立していた。

同日作成された救急センタートリアージシートには、Cの血圧について、同日19時8分に161/70mmHgとあるほか、「いつも血圧130」と記載されている。

同日、Cを診察したA医師(△病院勤務)は、患者診療録(S:主観的情報)の欄に、「【主訴】頭痛、吐き気」、「【現病歴】4/26から上記症状あり。じわじわ痛み出した。昨日から頭痛がひどくなってきた。後頸部とこめかみ部分が痛い。同じ痛みが持続。」、「【内服歴】ワーファリン」、患者診療録(O:客観的情報)の欄に、「BP161/70」、「体温36.9度」、「頭痛Red flag」の検討項目として、「突然ピークとなる」「今まで経験したことのない(+)」「これまでとは異なる(+)」「50歳以上で初発(+)」「増悪傾向(-)」「HIV・担癌(-)」「発熱・皮疹を伴う(-)」 「意識障害・痙攣を伴う(-)」「神経的所見がある(-)」「頭部外傷(-)」などと記載した。なお、診断の際に、Cは妹がくも膜下出血になったので不安である旨述べていた。

以上のような事情を踏まえてA医師は、元々頭痛はあまりなかったので、今までで一番痛いとのことだが、神経学的所見がなく、急な発症でないことから、くも膜下出血は疑いにくく、動いたり入浴でましになることから、緊張型頭痛が一番疑わしい、嘔気は頭痛によるものか降圧薬が変更されたためか不明で緊急性は低いと考え、緊急型頭痛と診断して解熱鎮痛剤と制吐薬を処方して帰宅させた。

同日の診療終了後、Cは夫◇1に肩を借りて支えられながらも独歩で車に乗って帰宅した。Cは、△病院で処方された解熱鎮痛剤と制吐薬を服用したが、翌29日も症状は改善せず、横になって過ごした。

Cは、同月30日午前6時頃起床時から後頭部痛及び全身脱力感を訴えたため、◇1が救急車を依頼し、同日午前8時15分頃、救急車で△病院へ搬送され、診察室へはストレッチャーで入室した。Cは、午前8時15分に△病院へ到着した際、血圧168/62mmHg、体温37.5度、意識レベルJCS0であった。

Cの血圧は、4月30日午前8時15分に△病院へ到着した際は168/62mmHg、同日8時27分は169/91mmHgである。

搬送時に救急隊員が作成した傷病者搬送票には、発生状況等(主訴)として「後頭部痛があり、全身の脱力も出現し、動けない」、その他の状況、観察、処置内容として「後頭部のズキズキする持続痛、全身の脱力感」との記載があり、△病院で救急隊員から引き継ぎを受けた救急担当医のB医師(△病院勤務)は、傷病者搬送票の記載内容確認し、「引継者・氏名」欄に署名した。

B医師は、ストレッチャーに乗って救急搬送されたCを、ストレッチャー上に寝かせたままの状態で診察した。診察の際、Cは、頭痛について、「4月28日も救急受診しており、頭痛薬を内服したところ、かなりマシになっている。」、「カンデサルタンからシルニジピンに変更してから調子が悪い。」と説明している。

B医師は、診察の際、上下肢のバレー兆候、手を握れるかの確認を行ったが、寝た姿勢から起き上がれるか、歩行ができるかの確認はしなかった。

B医師は、Cの収縮期血圧がいつもは130mmHg程度であるところ、本件診察当時は160mmHgくらいであることを認識していたが、当日朝に降圧薬を内服したか否かを質問しなかった。Cの普段のADLについても、本人や◇1に質問しなかった。

B医師は、瞳孔不同や対光反射の消失、緩慢がなく、眼球運動が正常で、呂律困難はなく、Jolt accentuation及び上下肢バレー徴候が陰性で、四肢麻痺、項部硬直がないことを確認した。

B医師は、神経学的所見に乏しいことから、一次性頭痛を一番に疑うとして、解熱鎮痛薬を処方して経過観察とした上で、帰宅を指示した。この時、B医師は、二次性頭痛の可能性はかなり低いと考えていた。

なお、一次性頭痛は、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などで、頭痛自体が疾患の頭痛である。二次性頭痛は、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、髄膜炎などの疾患が原因となり二次的に起こる頭痛である。二次性頭痛の原因はくも膜下出血に限られない。二次性頭痛は必ずしも神経学的所見を伴うわけではない。また、二次性頭痛であっても頭痛薬で緩解することがある。

Cは、診察後、ストレッチャーから降り、車椅子に移乗したが、B医師はその様子を見ていなかった。看護師は、帰宅時に家人が支えながら何とか車椅子に移乗して帰宅した旨カルテに記載した。

B医師は、本件診察当時、慢性頭痛の診療ガイドライン2013(以下「診療ガイドライン」という。)の記載内容を知っていた。

Cは、同月30日帰宅後、夕方、食事をとって就寝したが、5月1日午後0時50分頃、発熱、意識障害の症状を呈し、◇1が要請した救急車により、同日午後1時20分頃、△病院へ搬送された。

救急隊がC宅に到着した午後1時頃のCの意識レベルは、JCSⅢ―100であり、病院到着時にはJCSⅢ―200と意識障害が急激に悪化した。

担当医師は、Cに対しCT検査を実施し、慢性硬膜下血腫及び脳梗塞と診断した上で、緊急手術(血腫穿孔洗浄術)をした。なお、遅くとも4月30日の診療終了時までに、CT検査を実施していれば、両側性の慢性硬膜下血腫であることが判明していた。

5月1日、△病院の脳外科医であるD医師は「昨日、impendingの状態だったのだろう」と診療録に記載している(impendingは「差し迫った」、「切迫した」の意であるが、ここでは前後の記載から脳ヘルニアについて記載されたものと解される。)。

同日、緊急手術を行ったものの、既に慢性硬膜下血腫の増大によって頭蓋内圧が亢進し、脳ヘルニアにより両側の視床が圧迫されて、脳梗塞が起こったため、Cには高度意識障害、四肢麻痺が残存した。

D医師は、同月2日に、◇1らに対し、(圧迫が)「4月30日までに解除されていれば、梗塞に陥らなかった可能性は否定できない」と説明した。

Cは、障害固定日を令和元年9月1日として、令和2年1月9日、身体障害者手帳(1級)の交付を受けた。

Cは老衰により、令和4年5月3日、死亡した。

そこで、◇ら(Cの夫である◇1およびCの子である◇2。なおCも原告であったが訴訟係属中に死亡した。)は、Cが二度目の受診後に帰宅した翌日、意識障害起こし、慢性硬膜下血腫と診断され、緊急手術を受けたものの、高度意識障害等の後遺症が残ったことについて、診療にあたった医師には、遅くとも二度目の診療終了時までに、CT検査をして脳神経外科の医師に相談すべき義務があったのにこれを怠ったと主張して、△に対し不法行為に基づき、損害賠償請求をした。

(損害賠償請求)

請求額:
遺族2名合計5825万2070円
内訳:医療費254万0932円+入院雑費25万5068円+交通費(C分)4万1030円+付添見舞い等の交通費(◇ら分)12万0265円+介護用品購入費用157万0028円+休業損害101万4500円+逸失利益897万6355円+入院慰謝料239万2000円+後遺症慰謝料3000万円+文書費用及びカルテ開示費用4万6250円+弁護士費用2名合計469万5642円+近親者慰謝料660万円

(裁判所の認容額)

認容額:
遺族2名合計5041万4743円
内訳:医療費254万0932円+入院雑費18万6000円+交通費(C分)4万1030円+付添見舞い等の交通費(◇ら分)10万6720円+介護用品購入費用153万7156円+休業損害40万5800円+逸失利益897万6355円+入院慰謝料100万円+後遺症慰謝料2800万円+文書費用及びカルテ開示費用4万0750円+◇固有の慰謝料200万円+◇固有の慰謝料100万円+弁護士費用2名合計458万円

(裁判所の判断)

医師らに遅くとも二度目の救急受診の診察終了時までにCT検査をして脳神外科医師に相談すべき意義務があったか否か

この点について、裁判所は、B医師は、4月30日の診察時点において、Cの症状が、診療ガイドラインにおいて、二次性頭痛を疑うべきとされる9項目のうち、(1)突然の頭痛、(2)今まで経験したことがない頭痛、(3)いつもと様子が異なる頭痛、(4)頻度と程度が増していく頭痛、(5)50歳以降に初発の頭痛に加え、全身脱力感や体動困難という(6)神経脱落症状を有する頭痛にも該当する状態に該当することを認識し得たといえるし、Cが高血圧の状態にあることも認識していたといえると指摘しました。

B医師は、以上の状況において瞳孔不同や対光反射の消失、緩慢がなく、眼球運動が正常で、呂律困難はなく、ジョルトサイン及び上下肢バレー徴候が陰性で、四肢麻痺、項部硬直がないことを確認したことで、神経学的所見に乏しいことから、一次性頭痛を一番に疑うとして、解熱鎮痛薬を処方して経過観察としたうえで、帰宅を指示したとしました。

裁判所は、この点、二次性頭痛であっても、頭痛薬で緩解することもあるため、頭痛薬により緩解したことをもって、当然、二次性頭痛を除外することはできないし、また、ジョルトサインは髄膜炎等の髄膜刺激症状を確認する検査であり、頭蓋内病変の全てを診断できるものではないこと、頭蓋内病変が存在していても、必ずしもバレー徴候を疑うわけではなく、バレー徴候がないからといって、錐体路以外の障害による頭蓋内病変の場合は陽性とならないことからすれば、これらの検査が陰性であることをもって、頭蓋内出血の除外をすることもできない。B医師自身もバレー徴候では、頭蓋内病変の除外診断ができない旨供述していると指摘しました。

加えて、二次性頭痛は必ずしも神経学的所見を伴うわけではないから、神経学的所見が乏しかったことをもって、二次性頭痛を除外することもできないとし、したがって、B医師が二次性頭痛を除外できていたとは認められないと判示しました。

裁判所は、以上を踏まえれば、△病院の医師らには、遅くとも4月30日午前9時頃までに、Cの二次性頭痛を疑って、鑑別のために有用かつ適切なCT検査を実施した上で、脳神経外科の医師に相談すべき注意義務があったと認められるとしました。

そして、B医師は、4月30日の本件診療当時、「頭痛red flag」等が記載された4月28日の患者診療録や、全身脱力感がある旨記載された4月30日作成の傷病者搬送票に目を通した上で診察を行っているものの、同日の降圧剤の服用の有無や、ADLの聴取を行わず、ストレッチャーから降ろして、歩行状態を確認することなく、寝かせたままCを診察しており、二次性頭痛を除外することができない状況にあったにもかかわらず、この診察のみで一次性頭痛であると判断し、CT検査等を実施するに至っていないのであるから、この注意義務違反が認められるとしました。

裁判所は、さらに、△病院の医師らにおいて、遅くとも4月30日の診察終了時点までに、CT検査を実施し、脳神経外科医に相談していれば、緊急手術が実施され、脳ヘルニア、脳梗塞及び脳梗塞により生じる後遺障害を回避することができた高度の蓋然性があると認定しました。

以上から、裁判所は、上記(裁判所の認容額)の範囲で◇らの請求を認め、その後判決は確定しました。

カテゴリ: 2026年2月10日
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