東京高等裁判所平成30年3月28日判決 判例時報2400号5頁
(争点)
- 救急搬送時の検査義務違反があったか否か
- 退院時の検査義務違反があったか否か
*以下、原告を◇、被告を△1および△2と表記する。
(事案)
町(その後M市に編入合併)である△1の開設する病院(以下「△病院」という。)は、救急総合診療科及び小児科のほか、内科、外科、整形外科、形成外科、産婦人科、泌尿器科、脳神経外科を有する総合病院であった。また、M市を中心とする広域圏において、産科医及び小児科医が常勤する数少ない病院の一つであり、M広域圏の小児救急医療体制における二次救急病院として、平日夜間週一回、休日月二回の割合で、急性疾患の子どもに対する時間外診療に当たっていた。
△病院における平成21年10月3日から翌4日朝までの宿直体制は、医師がE医師、G医師及び△2医師(平成2年3月に大学医学部医学科を卒業した小児科医師で、平成21年6月から△病院に勤務)の3名、看護師がH看護師及びF看護師の2名であった。また、当日はM広域圏の小児救急医療体制における二次救急病院としての当番日に当たっていた。
A(当時13歳の中学1年生・成長や発達について特筆すべき異常はなく、既往症等やアレルギーはなし。祖父母及び叔父と自宅で同居)は、平成20年秋頃から頭痛を訴えるようになった。Aは平成21年6月12日、頭痛を訴え、O医院を受診したところ、発熱や咳痰等の症状がなかったことから、「片頭痛症」と診断されて、痛み止めと筋肉の緊張を和らげる薬の処方を受けた。
同年8月20日頃、Aは、頭痛を訴えるとともに、「気持ちが悪い」と言って嘔吐した。また、嘔吐のほか、光がまぶしく感じられた。頭痛は2日間ほど続いた。なお、この日の前後にAが医療機関を受診した形跡は無い。
同年9月21日、Aは、朝から頭痛と吐き気があった。同日午後3時頃、市販の頭痛薬を服用したが、効果がなく、2回も嘔吐した。一人でAの様子を見守っていたAの祖母Cが心配して救急車を依頼し、同日午後7時過ぎ、救急車でM病院救急科に搬送された。
M病院救急科医師は、Aについて、片頭痛、脱水症、髄膜炎の疑い、肝機能障害の疑い等の見立てに基づいて、診療を開始した。
問診の際、Aは頭痛について月に1回ぐらいあり、ずきずきする痛みで、一度頭痛が始まると、3日間ぐらい続くと話している。同医師は、Aに対し、触診を行ったが、心音呼吸音に異常はなく、項部硬直も見られなかった。ただし、このときにAは、頭を動かされると気持ちが悪いと話した。
同医師は、Aに対し、血液検査を実施したが、特に異常はなかった。そこで、点滴を行い、ロキソニン(痛み止め)を処方し、同月25日に再度受診するよう告げた上、帰宅を許可した。
その後、Aの頭痛は、2日間ほど続いてから軽減した。
同月25日、Aは中学校を休んで、Cに付き添われてM病院小児科を受診した。M病院小児科医師は、起立性調節障害(OD)を疑い、Aに対して起立試験を実施したが、結果は陰性だった。そこで、同医師は、経過から片頭痛が疑わしいと考え、頭痛時に飲むようにゾーミック錠剤を1錠処方した。
同医師は、Aに対し頭痛日記をつけるように言い、1か月後に来診するよう指示して、その日の診療を終えた。
平成21年10月3日の土曜日、Aは、午後6時30分頃、夕食を食べた。その後に摂食した形跡はない。
Aは、同日深夜になって、「頭が痛いよお」と叫び出し、嘔吐を繰り返した。
そこで、Aの祖父Dが既に就寝していたAの叔父B及び祖母Cを起こすとともに、同月4日午前0時28分、子どもが頭が痛いと言って吐いている旨の119番通報をした。(なお、以下年月の記載が省略されて時刻のみが記載されている箇所は、いずれも平成21年10月4日にかかるものである。)
午前0時34分、Cが二度目の119番通報をした。
M広域消防局××消防署救急隊の救急車が午前0時37分頃、自宅に到着した。同救急隊のI隊長はDの案内で自宅1階の洋式トイレに行き、Aがズボンとパンツを下ろして便座に座っているのを現認した。Aは、うつむいて力が抜けたような状態だった。
I隊長が、意識状態と自力歩行の可否を確認するため、Aに対し、「大丈夫ですか、立てますか?」と声をかけたところ、Aは、元気がなく、視線がしっかりしておらず、問いかけに対して返事をしなかったものの、自力で立ち上がってズボン等を上げた。Aは、同トイレから自宅玄関まで介添えを受けながら歩行し、玄関先からストレッチャーで救急車内に収容された。
なお、Aは午前0時39分の時点で、意識レベルに関する所見が、E(開眼機能)4点、V(最良言語反応)5点、M(最良運動反応)6点、であり、呼吸が18回/分、脈拍が50回/分、血圧が161/78、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)が98%、瞳孔が左右ともに3ミリメートル、対光反射が正常であった。また、午前0時55分の時点で、呼吸が18回/分、脈拍が63回/分、血圧が127/54、SpO2が97%の状態であった。
I隊長は、通信指令課からAがM病院に通院していたと聞いていたことから、M病院を収容先の第一候補と考えていた。CもAをM病院へ連れて行くことを希望した。しかし、Dが公的な病院を希望したことから、M病院を候補から外した。
通信指令課は、直近の総合二次病院であるP病院にAの症状を伝えて収容依頼をしたが、小児科領域であるし、CTの技師が今はいないとして、小児科二次病院に収容依頼をするようにとの回答だった。
そこで、通信指令課は、小児科二次病院の当番医であった△病院に収容依頼をし、了解を得て、救急隊員にこれを伝えた。
I隊長は、午前0時52分頃、搬送先を△病院として、救急車を出発させた。救急車にCが同乗し、Bが自家用車を運転して後に続いた。
Aは、本件搬送中、気持ちが悪いと訴えていたが、頭痛は訴えなかった。また、吐き気を示したが、嘔吐はしなかった。また、Cは救急隊員からAの既往歴について尋ねられ、病院からの処方薬があること、AがM病院を受診した際の傷病名は不明であるが、ホルモンバランスの関係であると言われたことを答えた。
これらの聴取の結果、救急隊員は、搬送先病院に交付する傷病者情報連絡票の「事故発生内容等」の欄に、「19:00頃より嘔気、下痢、5回程嘔吐したもの(食物残渣等)」と記載し「身体所見【特記事項】」の欄にいったん記載した「変(ママ)頭痛」の文字を二重線で消し、その脇に「ホルモンバランス等」と書き加えた。
同救急車は、午前1時16分頃△病院に到着した。救急隊員は傷病者情報連絡票に基づいて、△病院に対し、Aに関する引継ぎを行った上、午前1時26分頃、△病院から引き揚げた。
M広域消防局救急指令室から、△病院の当直に対し、嘔吐、下痢、頭痛の症状のある男子中学生(A)の収容要請があった際、△2医師は、たまたまその場におり、電話口で看護師が復唱しているのを聞いて、要請内容を理解し、同看護師に対してAの受け入れを指示した。
その後、△2医師は、Aの自宅に到着した救急隊員から、Aの意識レベルやバイタルサインについては問題がなく、主症状は嘔吐、下痢であるとの連絡を聞いた。
Aを乗せた救急車が△病院に到着すると、救急隊員は、Aの乗ったストレッチャーを救急室内に運び入れ、F看護師とともに、ぐっすり眠っている様子のAを救急室内のストレッチャーに移乗させた。F看護師は、H看護師とともにAのバイタル測定を行い、特に異常がないことを確認した。この時のAの血圧は129/70、SpO2が98%であった。
△2医師は、Aの乗ったストレッチャーとともに救急室内に移動しながら、救急隊員から、Aについて、前日午後7時頃から吐き気があり、午前0時30分頃から嘔吐、水様下痢のあること等の引継ぎを受けた。
△2医師は、当初の通信指令課からの収容要請において、Aについて嘔吐、下痢、頭痛の症状があるとの情報であったことから、嘔吐、下痢とくれば次は腹痛かと思われるのになぜ頭痛なのかと違和感を感じていた。そこで、救急隊員に対し、Aの頭痛の状況について尋ねた。
これに対し、救急隊員は、Aからの頭痛の訴えはなかった旨を述べた。
△2医師は、救急室において、Aに声をかけて目を覚まさせた上、問診を行った。Aは、今は吐き気はない、お腹も痛くないと答えた。
△2医師は、通信指令課からの第一報において、Aに頭痛の症状があるとされたことが気になっていたので、「頭痛は?」と尋ねたところ、Aは、「痛くない」と答えた。
次いで、△2医師は、Aに対し聴診及び触診を行った。嘔吐及び下痢の症状と聞いていたため、ツルゴール反応を見て、Aが脱水症状に陥っていないことを確認したほか、心雑音はなく、呼吸音も清明であるうえ、腹部の触診をしたり、口を開けさせてのどの所見を取ったりしたが、異常は見当たらなかった。
頭痛に関し、△2医師は、外傷性クモ膜下出血をある程度除外するために、項部硬直及びケルニッヒ徴候をみたが、異常は見られなかった。
また△2医師は、廊下で待っていたCを救急室内に呼び入れ、来院までの経過を尋ねた。Cは、頭痛や嘔吐で2、3回ほどM病院を受診して検査したが、思春期でホルモンバランスが安定しないための症状か、片頭痛だろうと言われた旨を答えた。なお、Bは、Aが救急室内に入れられた後、△病院に到着した。
これらのことから、△2医師は、Aの頭痛症状は一過性の片頭痛によるもので、既に頭痛の症状は消失していることなどから、特段の治療の必要性はないものと判断した。
△2医師は、主症状は吐き気、嘔吐及び下痢であり、Aがウィルス性の急性胃腸炎であるとの本件診断をし、本件診断に基づいて、吐き気止めの坐薬と整腸剤を処方することにした。
F看護師は、△2医師の指示により、Aに坐薬を挿肛した。Aは、坐薬の挿肛を受けた後、「気持ち悪い」と言って嘔吐した。
△2医師は、Aが嘔吐したのを見て、Aの症状がまだ改善していない可能性を考えて、採血の上、血液検査をするとともに、点滴をして、しばらく経過を見ることをF看護師らに指示した後、救急室を出て、病棟において、他の入院児の診察を行った。
その後、△2医師は上記血液検査の結果に異常な所見がないことを確認した。
F看護師は他の看護師とともに、Aに静脈留置針を入れて採血した後、H看護師が点滴を開始し、Aを救急室から処置室に移した。Aは処置室で眠った。
午前3時23分頃、Aに対する点滴が終了した。点滴の間、Aは眠っており、嘔吐や頭痛の訴えはなかった。△2医師はこの状況に関するF看護師の報告を聞いて、処置室に赴いてAに声をかけて起こした。
Aは、「頭痛い」と言いながら起き上がった。
△2医師は、これを聞いて、上記頭痛に関する発語が1回きりであったこともあって、Aが熟睡しているところを起こされて生理的に頭痛を覚えたのだろうと受け取った。
F看護師は「針を抜くとき痛いよ」と声をかけながらAから点滴の針を抜いた。
Aは、上記声掛けにうなずき、抜針した部位の酒精綿を抑え、ベッドから自力で降り立ったが、その際、言葉を発する元気もないといった様子だった。
△2医師は、Aに対し、帰宅指示をした上、上記抜針の前後に処置室から退出した。その際及びその後に△2医師がF看護師に対してAに関し格別の指示をした形跡は無い。
帰宅指示に基づいて、Aは自宅に帰ることになったが、Aは処置室から△病院の玄関に向けて歩き始めても足元がふらつく様子であった。
そこで、F看護師は、Cと共に両脇から腕を組むようにしてAを支え、玄関までAを歩かせた。F看護師が見たところでは、Aは何も言葉を発することもなく、ただ歩を進めているだけといった様子だった。F看護師は、Aの様子を見て、前日、中学校で文化祭が行われたと聞いていたこともあって、疲れ切って眠っているところを起こされては力が入らないのも当然だと受け取った。
同玄関付近まで来たところで、Aは、「吐きっぽい」と述べ、吐き気を訴えた。
F看護師は救急室に行って、ガーグルベースやティッシュを取って戻ってきた。すると、Aは玄関の風除室に置かれていた四輪電動車椅子の座席に座り、ハンドルを支えにしてうつ伏せになって動かなかった。また、その足元には嘔吐の跡があった。
F看護師は、Aが歩く距離を少しでも短くしようと考え、外の駐車場の車内にいたBに依頼して、玄関先までBの自動車を横付けしてもらった。なお、このとき、F看護師が△2医師に対し、現在のAの状況を報告して、同医師の指示を仰ごうとした形跡はない。
BがAを自家用車に乗せるために抱き起こそうとしたが、Aは車椅子に座ったまま動かなかった。そこで、F看護師は、B及びCに協力してもらって、Aを3人で抱え上げ、自動車の中へ運び入れた。
Bが運転し、Aが乗せられた自家用車は、午前5時頃、自宅前に到着した。しかし、Aは動かなかったし、言葉を発することもなかった。B及びCの2人ではAを抱えてAの中に入れることもできなかったので、毛布と枕を車内に運び入れ、Aに掛けてそのまま寝かせた。
Cは、午前8時頃、車内のAの様子を見に行った。嘔吐の跡が見られたので、これを拭き取った。このとき、Aの体は暖かかった。
午前10時30分頃、Bが車内の様子を見に行くと、Aが顔面蒼白で息もしていない様子だった。そのため、BがAの心臓のあたりに手を当てたが、反応が感じられなかった。
そこで、Bは急いで再び救急車を呼んだ。
Aは、午前11時35分頃、救急車により自宅から県立N病院に搬送されたが、来院時に既に心配停止状態であった。蘇生処置を約1時間施行したものの反応がなく、午後0時30分頃、死亡が確認された。死亡後の全身CTの結果、Aには明らかな外傷は認められなかったが、左側脳室内において直径9センチメートル程度の内部に出血を伴う本件のう胞を認めた。本件のう胞による脳幹圧迫の所見も認められた。Aの直接の死因は脳ヘルニアであり、脳ヘルニアの原因はのう胞内出血、のう胞内出血の原因は頭蓋内のう胞性腫瘤と診断された。
そこで、Aの母(相続人)である◇は、△2医師において、救急搬送時に頭蓋内圧亢進症を疑って必要な検査を行うべき医療上の注意義務又はAに対して帰宅を指示せずに△病院内で経過観察を行うべき医療上の注意義務があったにもかかわらず、必要な検査を行わないままAに帰宅を指示をして、適切な治療を受ける機会を喪失させた過失があるなどと主張して、△2医師に対しては不法行為に基づき、△1町を編入合併した△1市に対しては使用者責任又は債務不履行責任に基づき、連帯しての損害賠償を求めた。
原審(横浜地裁平成29年6月8日)は、△2医師においてAに頭痛があるとの情報を得ていたものの、診察時には頭痛は消失しており、嘔吐についても頭蓋内圧亢進症の際の典型的なものと異なることなどから、その頭痛症状が一過性の片頭痛によるものと判断したことにつき医学的に不相当なものであったとはいえず、頭蓋内圧亢進症を疑い、CT検査を行うべきだったとは認められないとし、◇の請求を棄却した。
これを不服として、◇が控訴した。
(損害賠償請求)
- 請求額:
- 7173万2679円
(内訳:逸失利益3771万1527円+慰謝料2400万円+葬儀費用150万円+◇固有の慰謝料200万円+弁護士費用652万1152円)
(裁判所の認容額)
- 原審認容額:
- 0円
- 控訴審の認容額:
- 3260万5763円
(内訳:逸失利益3771万1527円+死亡慰謝料2000万円+葬儀費用150万円+◇固有の慰謝料0円の小計5921万1527円に対する素因減額5割(=2960万5763円)+弁護士費用300万円に対し)
(裁判所の判断)
1 救急搬送時の検査義務違反があったか否か
この点について、裁判所は、救急搬送時、既に頭蓋内圧亢進症を発症していたものと認められるとしました。
すなわち、司法解剖の結果、Aの左大脳半球側頭葉には、脳室とは連続しない、比較的厚い皮膜で覆われた本件のう胞が占拠するとともに、本件のう胞の内部に褐色調の腫瘍性病変があったことが認められ、本件のう胞の占拠によって、以前からAの右大脳半球が圧排されていたことがうかがわれると指摘しました。
そして、本件のう胞による圧排が頭蓋内圧の亢進状態をもたらし、その結果、Aは頭蓋内圧亢進症を発症したと推認されると判示しました。
裁判所は、医学的知見によると、頭蓋内圧亢進症は、自覚的には(1)頭痛、(2)嘔吐、(3)視力障害の三主徴があり、他覚的には(4)意識障害などがあると指摘しました。
そうすると、Aが平成21年8月20日頃、頭痛が二日間続く症状に見舞われた際、ほかに悪心嘔吐と光がまぶしく感じられる状態であったというのであるから、これにいう三主徴である(1)頭痛、(2)嘔吐、(3)視力障害がいずれも発現していたと考えることができるとしました。
裁判所は、そして、遡って、同年6月12日にO医院を受診した頃に、頭痛の症状が既に見られたのであるから、Aはその当時、既に頭蓋内圧亢進症状を呈していたとも考えられるとしました。
裁判所は、そして、医学的知見によると、頭蓋内圧亢進症においては、嘔吐が終わると、頭痛は一時的に寛解し、また食べられるという特徴を有することが認められるとしました。
Aは自宅において、頭痛を訴え、嘔吐したので、同居の家族であるD及びCが119番通報したこと、救急車の中で、Aは、吐き気を示したものの、頭痛を訴えなかったこと、△2医師は、本件搬送時における診察において、Aに頭痛が発生した原因について疑問を抱き、Aに対して頭痛の有無を聞いていること、Aは、△2医師の問いに対して、今は吐き気はない、おなかも痛くないと述べたこと、医学的知見では、小児では、頭痛と嘔吐が3週間続くと腫瘍があると考えるべきであるとされていることが認められるとしました。
そうであるとすると、Aについて、頭痛と嘔吐の症状があったが、嘔吐が終わると頭痛が寛解したとすれば、頭蓋内亢進症を疑うべきであったということができると判示しました。
以上によると、△2医師には、本件搬送時、Aの頭蓋内圧亢進症を疑って、CT検査等を実施すべき義務があったと認められるとしました。
2 退院時の検査義務違反があったか否か
この点について、裁判所は、Aに対する点滴が終了して、△2医師がAに声をかけて起こしたところ、Aは、「頭痛い」と言いながら起き上がったこと、本件退院指示に基づいて△病院を出る際、Aが足元がふらつく様子で歩いていたため、F看護師は、Cと共に両脇から腕を組むようにして、Aを支え、玄関までAを歩かせたこと、しかし、Aは、玄関の風除室に置かれていた四輪電動車椅子の座席に座り、ハンドルを支えにしてうつ伏せになって、動かなかったこと、Aが同玄関において再び嘔吐していたこと、医学的知見として、頭蓋内圧亢進症の症状として意識障害が挙げられること、頭蓋内圧亢進症状が著しく進行すると、脳ヘルニアを発症すること、脳ヘルニアの進行とともに、脳幹が障害され、意識障害、除脳硬直及び呼吸障害が出現し、最終的には血液低下や呼吸停止を来し、死亡に至るとされている等の事実が認められるとしました。
裁判所は、そこで、Aの症状を考慮すると、△2医師において、Aに対する本件帰宅指示について、点滴終了後、その前提とした事実と状況が異なる事態が発生していないかどうかについて、医師が自ら観察するか、医療補助者であるF看護師に観察させて異常があった場合には、直ちに医師に報告するように指示するか、いずれかの措置を取る義務があったと認められると判示しました。
そして、Aは点滴終了後、ほどなくして再び嘔吐し、かつ、自力では歩行することもできなくなった事実が認められるとしました。最初の診察時は呼びかけには反応していたのであるから、眠くなったとしても、自動車に乗るための動作を全くしないというのは、Aの状態に関して新たな事態が出現したことがうかがわれ、この場合、動けなくなった原因について、意識障害が発生したことが強く疑われると指摘しました。
よって、本件退院時において、Aに意識障害の症状が出現していたことがうかがわれ、このような状態は、本件退院指示が前提とした条件と異なる事態というべきであるとしました。
裁判所は、したがって、このようなAの状態を現認したF看護師において、Aに関する上記状態の悪化の事実を△2医師に報告して、対応について指示を受けるべき義務があったというべきであるとしました。
そして、そのような報告がされていれば、△2医師において、Aについて、意識障害の発症を疑い、本件退院指示を撤回した上、頭蓋内圧亢進症を疑って、CT検査等を実施すべき義務があったというべきであるとしました。
ところが、△2医師は、Aに対する点滴針の抜針の前後に処置室から退室したのであって、上記にいう自ら観察することも、F看護師に対して、Aの状態に対する観察を指示することもしなかった事実が認められるとしました。
以上によると、△2医師において、AについてCT検査等を実施すべき義務があるのにもかかわらず、これを怠り、本件退院指示をし、かつ、Aの状態の悪化に気づかず、これを撤回しなかった過失があるというべきであると判示しました。
以上から、控訴審裁判所は、上記(控訴審裁判所の認容額)の範囲で◇の請求を認めました。
その後、控訴審判決に対して、上告、附帯上告、上告受理申し立てがされましたが、令和元年7月16日最高裁第三小法廷の決定で、上告及び附帯上告はいずれも棄却、上告受理申立てにつき不受理となり、控訴審裁判所の判断が維持されました。














