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No.237「ジルコニアブリッジ適応性の判断について、歯科医師が患者の咬合力や咬合関係を慎重に精査すべき注意義務を怠ったとして、歯科医師に賠償を命じた地裁判決」

東京地方裁判所平成24年1月19日判決 判例タイムズ1374号178頁

(争点)

不適応なジルコニアブリッジを装着したことについてのY2歯科医師の過失の有無
 

(事案)

Xは、平成19年10月26日、H病院において、I歯科医師により、右上6番から左上2番につき、右上6、3番、左上1、2番を支台歯とするメタルボンドブリッジを装着した。

Xは、同年11月28日、より審美性を追及したいと考え、白い透明感のある歯の補綴材について相談するため、Y1医療法人が経営するY歯科クリニックを受診し、Y歯科クリニック代表理事Y2歯科医師の診察を受けた。Xは、「白い歯で一番良いものは何か」と質問し、Y2歯科医師は「瀬戸物(セラミック)とジルコニアがある」などと説明し、最終的にジルコニアブリッジを装着することとした。Y2医師は、ジルコニアブリッジが破折する可能性があること、仮に破折したとしても保証がついているので5年間は無償で修理出来ることなどを説明した。Y2歯科医師は、平成19年12月7日に、Xの右上6番から左上2番につき、歯冠の形成、印象採得、咬合採得を行い、業者にジルコニアブリッジを発注し、同月17日に、同箇所に、右上6、3番、左上1、2番を支台歯とするジルコニアブリッジを仮着し、右下6番にジルコニアクラウンをセットした。その後、他の疾患で入院加療中に同ブリッジの破折が確認されたため、平成20年1月7日に同ブリッジを除去し、その後メタルボンドブリッジによる治療に切り替えた。

Xに最終的に装着されたメタルボンドブリッジは、各所に破折が生じた。

Xは、ジルコニアブリッジの不適応の過失などがあるとして、Y1医療法人に対しては債務不履行に基づき、Y2歯科医師に対しては不法行為に基づき、損害賠償請求訴訟を提起した。
 

(損害賠償請求額)

原告の請求額:1303万2000円
(内訳:他院で実施した当初のブリッジの費用104万円+本件クリニックに支払ったブリッジ費用234万円+再治療費347万2000円+慰謝料500万円+弁護士費用118万円)

 

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額:169万円
(内訳:治療費144万円+慰謝料10万円+弁護士費用15万円)

 

(裁判所の判断)

不適応なジルコニアブリッジを装着したことについてのY2歯科医師の過失の有無

この点につき、裁判所は、ブリッジなどの歯科補綴治療を行う場合、当該ブリッジが患者に適応するためには患者の咬合力や咬合関係を事前に把握することが重要であり、医師は歯科補綴治療を行うにあたっては、このような患者の咬合力や咬合関係を十分に把握し、適応性を判断する義務があると判示しました。

そして、特にXは、2歯欠損が2か所あることから、支台歯の高さが十分に確保されていることやフレーム部分に強度が得られるような工夫がされることが必要な事案であること、ジルコニアブリッジが未だ開発されて間もないもので、その適応性について十分な医学的知見が蓄積されておらず、強度において克服すべき問題があるところ、Xには、強い咬耗が認められ、就寝中の強いブラキシズムが疑われていたこと、ジルコニアフレームの保証規定には、「フレームの形態修正や咬合調整の仕方等によって無理な力が働き破折に至った場合は、メーカーに調査を依頼します。その結果によっては補償の対象外となる可能性もございます。ロングスパンブリッジ(特にインプラント上部構造)を作成される場合は、十分にお気をつけて下さい。」と記載されているところ、実際にXに装着されたジルコニアブリッジは、右上6番から左上2番までの8歯ブリッジであったこと、ジルコニアブリッジの適応性がないにもかかわらず、同ブリッジを装着した場合、早期の破折などの事態を招き、患者に対し、再度の治療による肉体的・精神的苦痛を与えるほか、高価なジルコニアブリッジが無駄になり財産的な損害を生じさせる結果になることなどを考慮すると、Y2歯科医師には、レジンなどの仮の歯でXの咬合力や咬合関係を把握した上で、慎重にXのジルコニアブリッジの適応性について判断すべき注意義務があったと認められると判示しました。

そして、そのような咬合力等の精査を行わないまま、いきなりジルコニアブリッジの装着を行ったY2歯科医師には過失があると認定しました。

以上から、裁判所は上記「裁判所の認容額」の範囲で、Xの請求を認めました。その後、判決は確定しました。

カテゴリ: 2013年4月 2日
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