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選択の視点【No.346、347】

今回は、クモ膜下出血の診断ができずに患者が死亡に至った事案で病院側の責任が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.346の事案では、外科医院を開業している医師が、患者に腰椎穿刺を試みたがうまく刺入することができず断念し、再度試みなかった理由として、患者の腰椎の著明な変形を挙げましたが、裁判所は、転院先で腰椎穿刺が行われたことに照らして、不可能であったとは思われないと指摘しました。

また、医師は、患者の入院の翌日に、諸検査の必要のため県立病院及び市民病院に転院させるべく電話で申し入れをしたが、いずれも空床がないとの理由で断られた旨を主張しましたが、裁判所が両病院に対して行った調査嘱託の結果、医師が電話をした当日、県立病院では脳神経外科の定数46床に対し入院患者数は41名であり、市民病院には空床が4つあったことがそれぞれ認められるし、医師が事実そのような転院交渉をしたのであれば、患者の家族に対し、何らかの説明ないし意向打診があって然るべきと思われるのに、そのような事実は証拠上認められないと指摘しました。そして、医師の上記主張は採用できないと判示しました。

さらに、患者の付添家族らが素人ながら診療に不安を抱き、自ら救急車を呼んで市民病院に転院させるという異例の行動をとり、これを受けた同病院も直ちにクモ膜下出血と診断して即日手術を行ったことなどに照らして医師の過失の程度は軽くないと判断しました。

No.347の事案では、患者が腰椎穿刺検査を拒否したことにつき、市立病院側はこの検査が行われていれば、診察に当たった一般内科医及び神経内科医らの過失があったとしても、クモ膜下出血との確定診断がなされ、脳神経外科医に引き継がれ、血管撮影と手術治療が進められたはずであり、発症3日以内に手術ができれば術後良好な予後措置を取ることができた蓋然性が極めて高いとして、患者の協力義務違反という予期せぬ事態から生じた死の結果まで医師らの過失と相当因果関係を認めることはできないと主張しました。

しかし、裁判所は、神経内科医は脳に異常がないことを告げた上で、念のため腰椎穿刺をすることを患者に勧めたにすぎず、患者において、腰椎穿刺を実施するか否かについて自ら決定するに十分な説明はなされていないのであるから、因果関係に影響を及ぼすものではないとして、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2017年11月 9日
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