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No.547「粟粒結核を原因とする急性呼吸窮迫症候群により患者が死亡。リウマチ科の医師に結核の再燃の可能性を念頭において注意深くX線画像を読影する注意義務違反を認めた地裁判決」

東京地方裁判所令和6年3月28日判決 判例時報2631号21頁

(争点)

医師に11月11日に実施した胸部X線検査の撮影画像の読影に係る注意義務違反があったか否か

*以下、原告を◇、被告を△と表記する。

(事案)

A(死亡当時75歳の女性)は、平成26年(以下、同年の記載を原則として省略する。) 6月18日、全身痛や倦怠感などの症状を訴え、医療法人社団である△が開設するクリニック(以下「△クリニック」という。)を受診し、△の理事長であり、リウマチ科の医師であるD医師の診察を受けた。

D医師は、Aを掌蹠膿疱症性関節炎(リウマチ性の疾患であり、掌や足の裏に膿疱ができるほか、関節痛などの症状がある。)と診断し、Aに抗リウマチ剤であるヒュミラを投与することにしたが、問診によりAに結核の既往歴があることを知ったため、同日、Aに胸部X線検査等を行い、抗結核薬であるイスコチンを処方し(結核の既感染者にヒュミラを投与すると、結核症状を顕在化ないし悪化させるおそれがあるため、結核の既感染者に投与する場合は、結核感染の有無の確認及び投与に先立つ抗拮抗薬の使用が必要とされている。)、2週間後からヒュミラ(関節リウマチ、多関節に活動性を有する若年性持続性関節炎等に効果、効能があるヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤)を投与することにした。

7月1日、Aは、子である◇とともに△クリニックを受診し、D医師の診察を受けた。6月18日の胸部X線検査で撮影した画像(以下「6月画像」という。)には、Aの左肺門部に陳旧性の結核感染を示す石灰化像が認められたが、活動性結核を疑わせる像は認められず、他の検査の結果からも活動性結核を疑われなかったため、D医師は、7月1日、Aにヒュミラを投与し、7月15日及び同月29日も、Aにヒュミラを投与した(ヒュミラの投与間隔は2週間)。また、同月29日、D医師は、Aに対し他クリニックで胸部CT検査を受けるように指示した。

8月12日、Aは、◇とともに△クリニックを受診し、D医師に対し、痛みは大分楽になっている、時々説明できない痛みが出現する、疲労感、倦怠感が強い、微熱がある、とにかく辛いなどと訴えた。

◇は、Dに対し、第三者から見ると、以前より動きが機敏になっている旨述べた。D医師は、ヒュミラの効果は著明であり、副作用もないと判断し、同日、Aにヒュミラを投与した。

8月26日、Aは、◇とともに△クリニックを受診し、D医師に対し、口腔内がいつもヒリヒリする、気力がない、倦怠感が強い、痛みは楽になってきている、夜も眠れていない、ぐらぐらするなどと訴えた。 ◇は、D医師に対し、悪くはなっていないと思う、歩き方がしっかりしている旨述べた。D医師は、イスコチンによる肝機能障害を疑い、それまで処方していたイスコチンを休薬することにしたが、ヒュミラの効果は著明であり、副作用もないと判断し、同日、Aにヒュミラを投与した。

9月9日、Aは△クリニックを受診し、D医師に対し、8月26日に処方された薬で楽になった、効果を実感している、心身ともに元気が出てきた、痛みもほとんど感じないなどと訴えたが、8月12日に処方されたメトレート錠(関節リウマチに効果がある。)を最初に服用した後、4日間微熱が続いた、その翌週は1週間位微熱が出たり出なかったりしたなどと訴えた。D医師は、微熱が出現したため、メトレート錠を休薬することにしたが、ヒュミラの効果は著明であり、副作用もないと判断し、9月9日、Aにヒュミラを投与した。

9月30日、Aは、△クリニックを受診し、D医師に対し、楽にはなっている、熱が36.8℃~37.8℃を行ったり来たりしていると訴えた。D医師は、CRP値(基準値は0.0から0.3。単位の記載は省略する。以下、同じ。)が0.0であったことから、発熱は心配しなくて良いと判断し、同日、Aにヒュミラを投与した。

なお、D医師はヒュミラの投与間隔を今後3週間とすることとした。

10月21日、Aは、△クリニックを受診し、D医師に対し、頚部・肋骨・腰が痛い、とても疲れやすくなっている、インフルエンザのワクチンを受けるタイミングはどうしたらいいかと訴えた。CRP値は4.0に上昇しており、赤沈も32に上昇していた(それまで赤沈は10以下であった。)。D医師は、Aに対し、CRP高値なので疲れやすいのは考えられる、インフルエンザのワクチンはヒュミラと関連はないので、いつ打っても問題ないなどと述べ、ヒュミラの効果は著明であり、副作用もないと判断し、同日、Aにヒュミラを投与した。なお、D医師は、ヒュミラの投与間隔を2週間に戻すこととした。

11月4日、Aは、△クリニックを受診し、Dに対し、疲労感がある、痛みは時々ある、夜間背部が苦しくなる、味覚異常があるなどと訴えた。CRP値は7.3に上昇しており、赤沈も47に上昇していた。D医師は、CRP値が高値だったことから、リウマチの活動性の再燃の可能性を考え、それまで1日1錠処方していた抗炎症作用のあるプレドニン錠5ミリグラム(プレドニンには、感染症の誘発・増悪の副作用がある。)を1日3錠に増量し、感染症等の可能性を考慮して、同日のヒュミラの投与を中止し、次回のヒュミラの投与を1週間後とした。

11月11日、Aは、△クリニックを受診し、D医師に対し、症状が少し変わってきている、2日前から歯が痛い、夜中には耐え難いほどの痛みがある、熱は36.8℃だがいつも暑い、CRPが上がった頃から頚部が腫れていた、強い咳が日に3回~4回出現する、声も段々出なくなってきた、プレドニンが増量になり少し楽になったなどと訴えた。CRP値は6.2であった。D医師は、CRP値が依然として高値だったことから、原因を検索するため、胸部X線検査を実施し、同検査で撮影した画像(以下「11月画像」という。)と6月画像を比較読影したが、11月画像には異常所見は認められないと判断し、白血球数が5300と正常値(基準値3500から9700)であったことから、CRP値の高値は感染症によるものではなく自己炎症によるものと考え、同日のヒュミラの投与を中止したが、2週間後にヒュミラの投与を再開することにした。

11月25日、Aは、△クリニックを受診し、D医師に対し、疲労感が強くなると倒れてしまう、平熱は今まで35℃前後だったが、自宅で測ると36.8℃くらいある、何となく倦怠感が強い、痛みは2~3日前から和らいできた、以前は扁桃腺が腫れていたが、今は治まっているなどと訴えた。CRP値は8.9であった。D医師は、白血球数が4900と少ないので、感染症は否定できると判断し、抗生物質(クラリス)を使用しながらヒュミラの投与を再開することとして、同日、Aにヒュミラを投与した。

12月8日、Aは、△クリニックを受診し、D医師に対し、前回から体が軽くなり熱っぽさが改善した、リンパ腺の腫れが引いた、体は楽になっている、味覚も戻り、美味しさを感じるようになったなどと訴えた。CRP値は7.1であり、白血球数は4700であった。D医師は、ヒュミラの効果は著明であり、副作用もないと判断し、同日、Aにヒュミラを投与した。

12月22日、Aは、△クリニックを受診し、D医師に対し、口腔内がずっと痛かった、上顎から出血した、以前、前歯をぶつけて歯茎の中で折れていて、手術をしたことがあるなどと訴えた。CRP値は12.2に上昇しており、白血球数は5600であった。 D医師は、細菌が入り炎症を起こしている、まずは炎症を抑えることが優先として、抗生物質(クラリス)を処方し、同日のヒュミラの投与を中止し、同月29日に電話でAから経過報告を受けることとした。

12月24日、Aは、上記口腔内の疼痛により、H1病院の歯科を受診したところ、口腔内に膿瘍形成が認められたため、消炎を目的としてそのまま同病院に入院した。Aは、入院時の胸部X線検査の結果、両肺に淡い結節が認められたため、CT検査を受けたところ、粟粒結核(結核菌が血行性に播種し、粟粒大、あるいはこれに近い大きさの結節状病巣を全身の諸臓器に招来する全身性疾患)が疑われ、陰圧個室に入院し、呼吸器内科に兼科して結核の検査を受けることとなった。

12月25日、Aは、呼吸不全を起こし、呼吸器内科に転科し、上記結核の検査の結果、粟粒結核と診断されて、12月27日に結核患者を隔離する施設のあるH2病院に転院することとなった。そして、12月25日、H1病院の医師はH2病院宛てに、入院時の胸部X線写真上、びまん性の粒状・結節影を認め、CT上、粟粒結核を疑う所見を認めた(前医11月の画像ですでに認める)旨記載した診療情報提供書を作成し、また、△クリニック宛てに、11月画像を見ると11月11日の時点で既に両側肺野に微細粒状影が広がっており、粟粒結核を発生していた可能性があると予想される、画像上、陳旧性肺結核が疑われること、△クリニックでのステロイド及び免疫抑制剤による易感染性があったこと、無治療糖尿病(HbAlc 9点台)が存在していたことが、粟粒結核発症のトリガーであったと予想される旨記載した御紹介患者報告書を作成した。

12月27日、AはH2病院に転院し、同病院に入院して治療を受けたが、平成27年2月に粟粒結核を原因とする急性呼吸窮迫症候群により死亡した。

そこで、Aの子である◇は、Aは、△クリニックのD医師の注意違反によって死亡したと主張して、△に対し、医療法68条(ただし、平成27年法律第74号による改正前のもの)の準用する一般社団法人及び一般社団法人に関する法律78条または民法415条に基づき、金員の支払いを求めた。

(損害賠償請求)

患者遺族の請求額:
3533万4341円
(内訳:入院治療費3万4010円+入院雑費8万8500円+入院 慰謝料99万4000円+逸失利益516万3670円+死亡慰謝料2200万円+葬儀費用84万1948円+遺族固有の慰謝料300万円+弁護士費用321万2213円)

(裁判所の認容額)

認容額:
1304万1948円
(内訳:死亡慰謝料1000万円+遺族固有の慰謝料100万円+葬儀費用84万 1948円+弁護士費用120万円)

(裁判所の判断)

医師に11月11日に実施した胸部X線検査の撮影画像の読影に係る注意義務違反があったか否か

この点について、裁判所は、ヒュミラの重大な副作用として結核があり、Aのような結核の既往歴のある患者及び胸部X線上結核治癒所見のある患者にヒュミラを投与する場合は、結核症状の発見に十分注意し、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うとされていたところ、 Aには平成26年2月28日に一般社団法人日本呼吸器学会が発行した「生物学的製剤と呼吸器疾患・診療の手引き」に記載されている結核の症状と一致する症状が認められたうえ、結核を含む感染症に罹患していることを疑わせるCRP値及び赤沈の上昇が認められ、加えて、抗結核薬であるイスコチンの投与が中止されていたため、結核を再燃する危険性があったのであるから、D医師は、11月画像を読影するにあたり、結核を再燃する可能性を念頭において、注意深く11月画像を読影する注意義務があったというべきであると判示しました。

そして、P3鑑定人は、「所見 両側下肺網状影、肺容積減少疑い」「診断 間質性肺炎疑い」「作業時間5分」との画像診断報告書を作成し、P4鑑定人は、「所見 左肺門部石灰化影、両肺びまん慢性のすりガラス影もしくは小粒状影の疑い」「診断 異常であるか否かの判断は難しく、そのためにはCTでの精査が望ましい」「作業時間10分」との画像診断報告書を撮影し作成し、P5鑑定人は、「所見 左肺門部に石灰化リンパ節あり。両全肺野に粒状影が散在している。左下肺野第4弓外側に索状の濃度上昇あり」「診断 陳旧性左肺門リンパ節結核、粟粒結核疑い、左舌区炎症後変化疑い」「作業時間5分」との画像診断報告書を作成し、3名とも臨床情報と11月画像によって11月画像の異常所見を認めたにもかかわらず、D医師は11月画像と6月画像を比較読影したにもかかわらず、11月画像に異常所見は認められないと判断したと指摘しました。

裁判所は、以上によれば、D医師が、11月画像を読影するに当たり、結核の再燃の可能性を念頭において注意深く11月画像を読影したと認めることはできないというべきであるとしました。裁判所は、したがって、D医師には結核の再燃の可能性を念頭において、注意深く11月画像を読影すべき注意義務につき、違反があったと認められると判断しました。

以上から、裁判所は、上記(裁判所の認容額)の範囲で◇の請求を認め、その後判決は確定しました。

カテゴリ: 2026年3月10日
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