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No.9 「ガラス片で腕に創傷を負い、救急搬送された患者を入院治療した病院に、受傷翌日までに整形外科を受診させるべき注意義務を認定」

平成15年9月25日 名古屋地方裁判所判決

(争点)

  1. 原告の後遺障害の原因
  2. 神経損傷、腱損傷等への対応に関する注意義務違反の有無
  3. 阻血解消措置を行わなかった注意義務違反の有無
  4. 因果関係
  5. 損害

(事案)

原告は、本件当時48歳の男性、被告は病院の開設者(法人)。原告が自宅で転倒して左前腕をガラスで負傷。平成9年11月27日に被告病院に救急搬送され、1ヶ月余り同病院で入院治療を受け、その後転医して、神経縫合術、腱以降術等を受けたが、平成11年6月24日に、左手指知覚麻痺、左5指の著しい機能障害及び左手指の巧緻運動不能の後遺障害が症状固定した。

(損害賠償請求額)

9,819万9,236円(損害の主張としては8,209万2,605円)
内訳:転医先での入通院慰謝料300万円+逸失利益5,759万2,605円+後遺障害慰謝料1,350万円+弁護士費用800万円

(判決による請求認容額)

440万円(後遺障害慰謝料400万円+弁護士費用40万円)

(裁判所の判断)

原告の後遺障害の原因

転医先で原告を診断した手の外科の専門医による診断や鑑定結果などから、原告の後遺障害は、正中神経及び尺骨神経の各損傷、腱損傷並びにフォルクマン拘縮が主たる原因となって発生したと認定

神経損傷、腱損傷等への対応に関する注意義務違反の有無

大きな外力が加わった前腕部の開放性損傷の治療に当たる医師としては、血管、神経及び腱等の損傷の有無を慎重に判断し、これらが認められた場合には、可能な限り機能障害を残さないように適切な処置を採るべき注意義務を負うと判示。
1. 本件の状況においては、当直のA医師には、受傷直後の救急外来の時点で創部を展開して、血管、神経及び腱等の損傷の有無を確認すべき注意義務は無いと判断。
2. 本件においては、緊急の阻血解消措置を必要とするほどの血行障害を疑わせる所見は認められなかったとして、A医師には、11月27日の救急外来後、直ちに専門的な治療のできる施設に原告を転送すべき注意義務は無いと判断。
3. 一般外科医は神経及び腱の一次縫合(受傷後直ちに縫合処置を行うこと)を行うべきはないと認めるのが相当であるとして、一般外科医である被告病院のB医師(被告代表者であり、被告病院の常勤外科医)が血管損傷、神経損傷および腱損傷に対する一次縫合などの処置を行わなかったことについての注意義務違反は無いと判断。
4. 神経損傷等が具体的に疑われる場合には、診察を担当した医師は可能な限り早期に整形外科を受診させるべき注意義務を負うと判示。そして、B医師らが原告に神経損傷及び腱損傷があることをほぼ確信し、原告が通常の場合以上に継続して強い疼痛を訴えていた11月28日の時点で、直ちに原告に整形外科を受診させるべき注意義務があったとし、B医師らの注意義務違反を認定。

阻血解消措置を行わなかった注意義務違反の有無

1. 一般外科医であるB医師らに、フォルクマン拘縮の可能性を認識した上で阻血解消措置を採るべき注意義務は無いと判断。
2. 受傷後5日程度経過した場合であってもフォルクマン拘縮の急性期として扱い得るとの知見が、本件当時に一般整形外科医(手の外科を専門としない整形外科医)にまで普及していたのものとは認め難いとして、一般整形外科医であるD医師が、受傷後5日程度経過した時点で、フォルクマン拘縮の可能性を認識しながら、緊急に阻血解消措置を採る必要はないと判断したことについて、注意義務違反は無いと判断。

因果関係

B医師らが11月28日に原告に整形外科を受診させていれば、原告の後遺障害が現在の症状よりは程度の軽いものにとどまっていたであろうという限度で、原告の現在の後遺障害とB医師らの注意義務違反との間に相当因果関係を認定。

後遺障害を免れ、又は、相当軽度な後遺障害にとどまったであろうことについてまでの相当因果関係は否定。

損害

B医師らが注意義務を尽くしていたとしても、相当期間の入通院治療を受けた可能性は高く、また、相当高度な後遺障害が残った可能性は否定できず、原告の後遺障害が軽減され得た程度を確定することはできないとして、入通院慰謝料及び逸失利益を損害とすることを否定。

B医師らの注意義務と相当因果関係のある後遺障害慰謝料として、400万円を認定(注意義務を尽くしても相当高度な後遺障害が残った可能性が否定できないこと、11月28日は、被告病院の非外来診察日であったこと、次の外来診察日の12月2日には、被告病院の整形外科を受診させていることなどを考慮た)。弁護士費用は40万円を相当とした。

カテゴリ: 2003年12月 2日
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