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No.550「医療保護入院中の身体的拘束により患者が急性肺血栓塞栓症を発症して死亡。違法な身体的拘束を行ったとして病院側の責任を認めた高裁判決」

名古屋高等裁判所金沢支部令和2年12月16日判決 医療判例解説(2021年6月号)92号56頁

(争点)

身体的拘束が違法であったか否か

*以下、原告を◇および◇、被告を△と表記する。

(事案)

A(死亡当時40歳の男性・親の大工仕事を無給で手伝い)は、平成11年8月ごろから、多弁、不安の訴え、独語、空笑い、イライラがあり、同年9月30日に法人である△の運営する病院(以下「△病院」という。)へ医療保護入院し、平成12年1月15日に退院した。Aは、平成16年に医療保護入院、平成24年に任意入院をし、その後も3ヶ月に1度程度の頻度で△病院に通院して受診し、平成28年9月27日(以下、特記しない限り月日のみの記載は平成28年中の月日を示す。)にも通院した。

△病院の診療科は、精神科、神経科及び内科であるが、病床数268床の内訳は認知症治療病棟49床、精神療養病棟計169床、精神病棟50床となっており、実質的には精神科単科の病院である。

B医師は、12月20日当時、△病院に勤務していた医師であり、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)18条1項の精神保健指定医に指定されていた。

Aは、12月6日、両親である◇および◇とともに△病院の外来を受診した。

△病院の医師でAの主治医であったD医師は、◇らとともに来院したAを診察したところ、Aが、診察時に落ち着きがなく、身振り手振りで回答し、突然宙を指して合図を出すなどし、入院の話にもイライラした様子で、話が了解困難であったほか、◇らから、11月頃から不眠となり、自宅を徘徊し、独語が増えた、イライラして落ち着きがなく、家族に殴りかかる振りをするようになった、毎日2Lペットボトルのお茶を6本飲むなどの申告もあったため、主たる精神障害を統合失調症と診断した上で、「不穏、過飲水」のため入院加療が必要な状態であると判断した。D医師は、精神保健指定医ではなかったため、B医師が診察の上、Aの代わりに◇の同意を得て、医療保護入院の措置をとることとした。

なお、Aは、本件入院時、身長186.6cm、体重64.6kgであり、喫煙者であった。また、血液疾患や身体面での基礎疾患、既往疾患はなかった。

Aは、本件入院中、△病院の病棟内で過飲水の様子が見られたほか、看護師の両腕をつかみ「逮捕や、逮捕や」と強口調で話す、大声、意味不明な言動による多動、不穏な様子が継続したため、D医師は、12月9日、開放観察可とした上でAを隔離することとした。

なお、Aは、本件隔離中、△病院の精神病棟の保護室に入室していた。

Aは、12月10日、歌を連呼して下膳になかなか応じないなど、意思疎通の不良が見られたものの、妄想言動や拒薬はなく、落ち着いた様子も見られた。また、同月11日は、不穏言動はなく、落ち着きが見られた。

Aは、12月12日午前10時頃、D医師の診察の際、D医師を見るなり、興奮して怒り出し、本件隔離に対する不満等をまとまりなく訴え、興奮して「殴らせろ」と述べるなどの言論が見られたが、暴力はよくない旨の説明を受けると、「じゃあエアーげんこつさせろ」と述べるなど、やや落ち着いた様子となった。

しかし、Aは、同日午前11時30分頃、保護室より出室した後、朝夕の体重が3kg増加しなければ開放観察をする旨のD医師の指示を看護師から聞くと、看護師に対し、「お前の指示か」「オレはケイサツ」と興奮して手をねじり、頭突きで押す暴行を加え、その後もまとまりのない言動が続いた。

Aは、同日午後1時20分から30分頃、△病院内の公衆電話から警察署に電話をかけ、「私は警察官、白バイにも乗っとる」と言い、対応した看護師に目突きをしようとするなど幻覚妄想的な言動をしたため、D医師は、本件隔離を継続する必要があると判断した。男性看護師4名で保護室への入室を促したところ、「私は警察官」と主張し、入室後も看護師の手を離さずに保護室内へ引きずり込もうとした。その後もAの興奮状態は継続し、同日午後3時には、男性看護師4名、女性看護師1名が、D医師の指示により向精神薬であるリントン等の筋肉注射をする旨説明すると、Aは、看護師らに対し、「その注射をかせ、オレが打つ」と述べるなど、興奮が強かったため、看護師らはAの身体を抑えつけて注射をした。注射後もAの怒号が強く、興奮状態も継続していた。

B医師は、12月13日、D医師からAの担当を引き継いだ。

Aは、同日午前10時頃実施の検温の際には暴力が見られず、易怒性・興奮もなく、排便の有無の質問に対しては整合性がある返答していた。もっとも、Aは、同日午後5時頃、内服薬の摂取には応じたものの、注射については「嫌や」と拒絶し、男性看護師5名でAの身体を押さえつけて注射をしようとした際には、強く抵抗し、看護師に対し、頭突きをしたほか、「ワシは医者やぞ」「公務執行妨害やろ」などの妄想的な言動があった。Aは、看護師からリントン等の筋肉注射を施行された後も、保護室から退出しようとする看護師に対し殴りかかろうとした。

B医師は、同日時点では筋肉注射後にAの刺激をなくし、注射の効果を見たいと考え、身体的拘束の判断はしなかった。

Aは、12月14日午前3時30分頃起床し、室内を徘徊するなどした後、午前7時30分頃、薬は拒否なく服用したが、「Vホームで何軒家建てた人がおるやろ」などと意味不明な発言をした。同日午前10時頃、看護師が保護室の小窓から話しかけると、「ケイヤク違反や」と繰り返し話すなどし、お茶の交換の声かけにも返答はなく、表情は硬かった。また、Aは、同日正午頃、昼食を全て食べたものの、「仕事のじゃまするな。Vホーム何軒家建てた。」と一方的に話すなどした。

B医師は、同日午後1時45分頃、看護師8名とともに保護室に入室し、Aの診察をしたところ、この時点では診察に対し興奮、抵抗はなかったものの、前日からAの様子も踏まえて、精神保健福祉法37条1項に基づき厚生労働大臣が定める処遇の基準(昭和63年厚生省告示第130号。以下「告示第130号」という。)の「二 対象となる患者に関する事項」のうち、「多動または不穏が顕著である場合」及び「精神障害のために、そのまま放置すれば、患者の生命にまで危険が及ぶおそれがある場合」に該当すると判断して、Aを静養室へ移動させ、本体身体的拘束(四肢、体幹、肩抑制)を開始した。本件身体的拘束開始時には、Aに興奮や抵抗は見られなかったものの、その後もまとまりのない言動や妄想が続いた。

本件身体的拘束では、マグネット式拘束帯を使用し、拘束の程度は、下肢は上に約20cm、前後左右に約15cm程度可動域が確保されるように調整されていた。

本件身体的拘束に当たり、B医師は、看護師に対し、Aへマッサージをするよう指示はしてはいなかったが、血流を促進するような動作実施に向けた一般的な指示として、特に同月15日以降、状況次第では、食事・洗面・トイレ等の日常生活において、一部あるいは全部の拘束帯を外す開放観察の指示をしていた。また、上肢、下肢の血圧、血行状態、むくみ、胸疼痛等のチェックを実施すること、行動制限観察記録に、異常がない場合には、レ点のチェックをし、異常を認めた場合には〇を示し、看護記録に異常の内容を記載することも指示していた。

他方、本件身体的拘束では、Aに弾性ストッキングは装着されておらず、Dダイマーの測定も実施されていなかった。また、△病院には間欠的空気圧迫装置が設置されていないため、間欠的空気圧迫法が行われることもなかった。

Aは、12月15日、基本的に口調は穏やかであり、検温測定にも拒否する様子はなかったものの、B医師が診察した際には、同月13日のような暴力行為をしないと約束してほしい旨話をすると、「王将挨拶をしようとしているのに、多勢無勢に来たからやった」などと徐々に強い口調になることがあり、易怒性が見られた。また、Aは、同日、「FBIの人を殺したいやろ」「チェーン店みたいに△病院〇店、△店の方に親ではない人に強制的入院させられた」などのまとまりのない発言や、「親役と名乗る2人が1歳の頃から自分をストーカーしている」などと興奮した口調での妄想的な発言も見られた。

Aは、12月16日、朝食及び昼食を、両手の拘束を外し自力摂取することができ、再拘束にも強い抵抗を示すことはなかった。また、Aは、同日、不穏や興奮状態もなく、看護師の介護への抵抗もなかったが、「警察の資格を2つ持っている。借金なしで学校に通った。大工の仕事を続けていたらギネス記録になった。」などとまとまりのない発言をすることはあった。

Aは、12月17日、易怒性や興奮した様子は見られず、不穏な行動もなく、看護師に対して挨拶を返すこともできていた。また、注射に対する抵抗もなかった。他方、Aは、同日、看護師に対し、「財産権の侵害か。職場に男の子か女の子の売り子が居って社長が困っとった。」などとまとまりのない発言をすることがあった。

Aは、12月18日の朝、37.5度の発熱があり、最大で37.8度まで上昇したが、翌日には36度台まで解熱した。また、Aは、同日、基本的には落ち着きがあり、妄想的な言動も少なく、注射に対する抵抗も見られなかったほか、夕食は上肢の拘束を外した状態で自力摂取していた。他方、Aは、同日午前10時20分頃、妄想的な言動することもあり、同日午後7時45分には、咳で腎臓が痛い、血が出たかもなどと、ややまとまりのない発言もしていた。

Aは、12月19日、朝食、昼食、間食及び夕食のいずれも上肢拘束を外し、ベッドをギャッジアップした状態で自力摂取することができ、各食事後の再拘束にも抵抗はなかった。また、Aは、看護師による注射や右下肢拘束を外した状態での座薬の挿肛を抵抗なく受け入れ、B医師の診察の際には、発語はほとんどなかったが、B医師の話にうなずくなどしていた。

Aは、同日午後4時35分頃、E准看護師に対し、便意を伝えたところ、B准看護師は、このようなAの状態を踏まえ、B医師から出ていた開放観察の指示に基づいて、身体的拘束を全て外し、静養室内のトイレで自力排便するよう促した。Aは、ベッドから降りる際、自ら2、3回屈伸運動をし、トイレまで歩いて向かってからベッドまで戻り、再拘束にも抵抗しなかった。

また、B医師は、このままの調子であれば、本件身体的拘束を解除できる方向であるとの趣旨で、翌日から勤務を再開するD医師に対する申し送りとして、話に支離滅裂なところがあるがAの様子が静穏になってきたことや、注射継続の有無や抑制解除について、看護師の評価も参考に指示してほしい旨診療録に記載した。

Aは、12月20日、上肢拘束を外し、ベッドをギャッジアップした状態で朝食を自力摂取することができており、再拘束にも拒否なく応じていた。Aは、同日午前10時頃、発熱はなく、身体的不調を訴えることもなかった。Aについては、同日に開放観察下で入浴する予定が決まっていたところ、E准看護師は、前日からのAの様子等に加え、入浴に備えるという意味から、B医師の開放観察下の指示に基づき、上肢拘束及び下肢拘束を外した。この際、Aは、自ら大腿部や下腿部をさすり、膝を胸まで当てるような形での屈伸運動を4、5回行った。

E准看護師は、同日午前10時10分頃、Aが尿意を訴えたため、上記と同様の趣旨で体幹及び肩拘束も外した。Aは、ベッドから降りた後、自ら2、3回屈伸運動してから静養室内のトイレへ向かい、5分程度経過した後にベッドまで戻り、看護師らに何の訴えもすることなくベッドに座っていた。そのようなAの様子を見たE准看護師は、同日午前10時15分から20分頃、Aの身体的拘束を再開せずに、お茶を渡した上で静養室を出た。

E准看護師は、12月20日午前10時30分頃、ナース室に戻り、同所に設置されたモニター(病棟内の部屋の映像を3秒から5秒程度映し出した後、自動で次の部屋の映像に切り替わる設定となっていた。)を操作して、手動で静養室の映像に切り替えたところ、Aがベッドと壁の間に倒れ込んでいるのを発見し、すぐに訪室したが、すでにAの呼吸は停止している状態であった。

その後、同日午前11時、△病院医師2名立ち会いの下、Aの死亡が確認された。

司法解剖医は、12月21日、Aの死因を、下肢深部静脈血栓により、急性肺血栓塞栓症と判断した(本件身体拘束により急性肺血栓塞栓症を発症してAが死亡したことは当事者間に争いがない。)。

そこで、Aの相続人である◇らは、医療保護入院中に身体的拘束を受けていたAが死亡したことについて、△に対し、△病院に勤務する医師らが、違法に身体的拘束を開始・継続し、また、身体的拘束による肺動脈血栓塞栓症の発症を開始するための注意義務に違反した過失によりAが死亡したとして、使用者責任に基づく損害賠償請求をした。

原審(金沢地裁令和2年1月31日判決)は、身体的拘束の開始及び継続に違法はないが、Aに弾性ストッキングを装着させなかった過失があるとした上で、弾性ストッキングを装着させたとしても死亡の結果を確実に回避することができたとはいえないとして、◇らの請求をいずれも棄却したところ、これを不服とする◇らが控訴した。

なお、◇らは控訴審において、Aの死亡について、暴行行為及び原審とは異なる注意違反(水分制限や大量の抗精神病薬処方)を理由とする損害賠償請求を追加した。

(損害賠償請求)

原審及び控訴審での患者遺族の請求額:
遺族2名合計8631万9266円
(内訳:逸失利益4931万9266円+死亡慰謝料2500万円+遺族固有の慰謝料両親合計500万円+弁護士費用700万円)
原審裁判所の認容額:
0円

(控訴審裁判所の認容額)

認容額:
3529万4816円
(内訳:逸失利益809万4816円+死亡慰謝料2000万円+遺族固有の慰謝料両親合計400万円+弁護士費用320万円)

(控訴審裁判所の判断)

身体的拘束が違法であったか否か

この点について、裁判所は、本件身体拘束の開始を判断した12月14日午後1時45分の時点ではAには診察に対し興奮、抵抗はなかったこと、本件の診療経過を見ても、同日朝からのAの言動は意味不明な発言をしたり(午前7時30分頃)、「ケイヤク違反や」と繰り返し話したり(同10時頃)、一方的に話すなどしたり(正午頃)する一方で、薬は拒否なく服用し(午前7時30分頃)、昼食を全て食べ食器の返却に応じた(正午頃)というのであり、早朝から暴力的言動は一切見られなかったことに照らすと、その前日までに看護師に対する暴力行為が見られたことやAが大柄な男性であることなどの事情を考慮しても、本件身体的拘束を開始した時点では、告示第130号の「多動又は不穏が顕著である場合」(第4の2イ)に該当するとは認め難いとしました。

裁判所は、また、Aに対する身体的拘束をしないと判断した場合、Aの暴力に対して必要な医療行為や看護行為を管理することができないまま状態が悪化して、Aの生命に危険が及ぶ可能性があることは否定できないが、本件隔離後にはAの飲水は制限内にまで治まっており、Aの生命及び身体に対する危険が及ぶおそれがあるような事態が発生した様子見られない以上、本件身体的拘束を開始した時点では、告示第130号の「そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぶ恐れがある場合」(第4の2ウ)は直ちに該当しないとしました。

裁判所は、次に、告示第130号の「身体的拘束以外によい代替方法がない場合」(第4の2本文)に当たるかについて検討するに、特に注射に対するAの抵抗は激しく、12月13日には看護師5名で押さえつけて注射した際に、看護師に対して頭突きを加え、退室しようとする看護師に殴りかかろうとするなどの暴力行為があり、このことからすると、看護師の安全を確保しつつAに対する注射その他必要な医療行為を行う必要があるところ、B医師ほか看護師8名で対応した12月14日の診察の際にはAに興奮、抵抗は見られず、大人数で対応すると入院患者が不穏にならず力ずくで静止しないでよいことが経験的にあるというのであれば、一時的に人員を割くことによって必要な医療行為等を実施することができるものといえ、「身体的拘束以外によい代替方法がない場合」に当たるとみることは困難であるとしました。

裁判所は、Aに対して必要な医療行為を行うといった限定的な場面において、△病院には、その都度、相当数の看護師を確保しなければならないことによる諸々の負担等が生じるとしても、身体的拘束は入院患者にとって重大な人権の制限となるものであるから、告示第130号の趣旨に照らすと、患者の生命や身体の安全を図るための必要不可欠な医療行為等を実施するのに十分な人数を確保することができないような限定的な場面においてのみ身体的拘束をすることが許されるものと解され、必要な診察を問題なくすることができた12月14日午後1時45分の時点では「身体的拘束以外によい代替方法がない場合」には当たらなかったものというべきであるとしました。

裁判所は、そうすると、精神科病院の入院患者に対する行動の制限にあたっては、精神保健指定医が必要と認める場合でなければ行うことができないものとされ、精神医学上の専門的な知識や経験を有する精神保健指定医の裁量に委ねられているとしても、行動制限の中でも身体的拘束は、身体の隔離よりもさらに人権制限の度合いが著しいものであり、当該患者の生命の保護や重大な身体損傷を防ぐことに重点を置いたものであるから、これを選択するに当たっては特に慎重な配慮を要するものと言え、告示第130号の「多動又は不穏が顕著である場合」 (第4の2イ)または「精神障害のために、そのまま放置すれば患者の生命にまで危険が及ぼす恐れがある場合」(同ウ) に該当とするとして、12月14日午後1時45分の時点で身体的拘束を必要と認めたB医師の判断は、早きに失し、精神保健指定医に認められた身体的拘束の必要性の判断についての裁量を逸脱するものであり、本件身体的拘束を開始したことは違法であると判断しました。

そして身体的拘束の継続の違法性についても、本件身体的拘束を開始した後の診療経過に照らしても、Aの生命または身体に対する危険が及ぶおそれは生じておらず、本件身体的拘束が適法になることはなかったものと認められるとしました。

裁判所は、本件身体的拘束の開始及び継続は違法であったと認められるところ、Aは、本件身体的拘束により急性肺血栓塞栓症を発症して死亡したのであるからその余の争点について判断するまでもなく、△は◇らに対して使用者責任に基づく損害賠償義務を負うと判示しました。

以上から、裁判所は、上記(控訴審裁判所の認容額)の範囲で◇らの請求を認め、その後、最高裁は上告不受理を決定(令和3年10月19日)し、判決は確定しました。

カテゴリ: 2026年5月11日
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