医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.398、399】

今回は、手術の手技上の過失が認められた事案を2件ご紹介します。

No.398の事案では、病院側は、患者の死因は心筋梗塞と主張しました。しかし、その主張の根拠である、「患者の容態急変後の心電図によればST波の上昇があった」という点について、裁判所は、(1)ST波の上昇を認識した麻酔担当外科医師に遅れること5分足らずで患者のもとに執刀医師が来たころの心電図は、既に有効な心電図の波形ではなかったこと、(2)執刀医師が患者に心筋梗塞が発生したと判断した根拠は、心電図より患者が容態急変前に苦しんだという話を聞いたことを基にしていること、(3)病院側が指摘する心電図は、急変後10分以上経った午後6時35分にとられたものであることから、麻酔担当外科医師が患者の容態急変後ST波上昇を認めたからといって、患者に心筋梗塞が発生したことを認めることは困難である等と判示して、病院側の主張を採用しませんでした。

No.399の事案では、裁判所は、腫瘍摘出に際して手術中における内頸動脈からの不慮の出血を考慮して、脳血管撮影時に前交通動脈や後交通動脈からの側副血行の状態を観察する必要があり、安全で有用な検査も存したのに、医師がこれを怠ったことは過失であるし、執刀医には、手術前に、患者に対し、その摘出範囲等の決定を最終的には自己が行うことを説明した上で、全摘出をしないで部分摘出に至るのはどのような場合であるのか、部分摘出にとどまった場合には、後にいかなる治療方法があるのか、その治療方法の有効性及び危険性について説明する義務があったのに、これを懈怠した過失があると判断しました。しかし、両過失と患者に生じた損害との間の因果関係は否定しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2020年1月10日
ページの先頭へ