今回は、歯科医師が業務上過失致死罪で有罪となった刑事事件の判決を2件ご紹介します。
No.554の判決紹介にあたっては、一審判決(東京地裁平成25年3月4日判決。判例時報2190号133頁)も参考にしました。一審判決の量刑の理由として、被告人(歯科医師)は、かなりの症例数を誇るインプラント治療の専門家でありながら、インプラント治療を行う医師の間で安全性や有用性に問題があるとされていた方法を、疑問を抱くことなく有効な治療法であると軽信して採用していた。インプラント手術という歯科医療の中でも侵襲性の高い治療を行っているにもかかわらず、臨床歯科医師に期待される医療の一般水準に対応する努力を怠っていたというほかないと指摘しました。他方、患者遺族との間で和解が成立し、和解金として5935万5137円を支払ったことや、前科はなく、これまで歯科医師として長年診療を続けてきたことなどを酌むべき事情と認めました。
No.555の事案では、歯科医師の弁護側は、原判決につき、偶発症の抽象的な可能性を認識しただけで、すべての抽象的な可能性のある疾患を疑い、診察や検査を網羅しなければ過失犯となるとするのは、医療者に不可能を強いるものであると主張しました。しかし、控訴審裁判所は、原判決は、被告人(歯科医師)が、偶発症に陥っている抽象的な可能性を認識したと判断しているのではなく、複数の歯科医師のほか、複数の医師ら医療関係者の供述を踏まえ、本件当日、本件歯科医院で歯科治療が行われた直後の午後5時10分頃、被告人(歯科医師)が患児の父親から患児の異常を訴えられた時点で、問診、視診若しくは触診により患児の全身状態を十分に確認し、又はパルスオキシメーターによる動脈血中酸素飽和度及び脈拍数の測定等を行っていれば、患児が急性リドカイン中毒を含む偶発症に陥っている可能性があり、放置すれば死亡する可能性があることを認識し得たものと認められ、かつ、遅くとも午後5時30分頃までには、患児の救命処置に移ることは可能であったところ、その時点で被告人(歯科医師)が、業務上の注意義務を履行していれば、患児の死亡を避けられたと判断しているのであるから、弁護側の主張は前提を欠くとして採用しませんでした。そして、患児は、本件当日、本件歯科医院において、リドカインを主成分とする局所麻酔剤を用いた歯科治療を受けた直後に容体が急変しているのであり、かつ、両親が、その旨をしきりに訴えていたのであるから、被告人(歯科医師)において、患児のリドカイン中毒を疑う契機が十分あったことも明らかであると判示しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。














