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No.558「胃がん検診における注意義務違反と受診者死亡との因果関係は否定したが、注意義務を尽くしていれば、受診者が死亡時において生存していた相当程度の可能性があった判断をした高裁判決」

東京高等裁判所平成30年9月26日判決 ウェストロージャパン

(争点)

  1. (注意義務違反1)
    医師は、平成22年内視鏡検査に関して、更に病理組織検査を実施すべき注意義務があったのに、これを怠ったか否か
  2. (注意義務違反1の2)
    医師は、平成22年内視鏡検査の当日(平成22年2月15日)か、遅くとも検診終了から1週間後(同月22日)までに、この内視鏡検査が途中で中断したこと、及びそのためにエックス線検査で異常が疑われた部位を正確に撮影できなかったことをAに告知すべき注意義務があったのに、これを怠ったか否か
  3. (注意義務違反2)
    医師は、平成22年エックス線検査に関して、更に内視鏡検査を要すると診断し、指導すべき注意義務違反があったのに、これを怠ったか否か
  4. (注意義務違反2の2)
    医師は、平成22年エックス線検査の当日(平成22年12月1日)か、遅くとも検査終了から1週間後(同月8日)までに、エックス線検査の客観的な所見、すなわち、一昨年、昨年と同様に穹窿部に粘膜異常所見があったことを認識及び精密検査の要否等をAに説明・告知すべき注意義務があったのにこれを怠ったか否か
  5. (注意義務違反3)
    (原審からの主張に、当審において時的因子を追加)
    医師は、平成23年エックス線検査(平成23年7月16日)の終了後、同月21日までにAの胃の穹窿部に隆起性病変があることを認識し、その内視鏡検査の必要性を認識していたのであるから、その1週間後である同月28日までに(読影委員会による2次読影の結果が判明した平成23年8月4日以降は当然に)、上記エックス線検査の診断内容をAに通知して、医療機関において精密検査を受診するよう指導すべき注意義務あったのに、これを怠ったか否か
  6. 注意義務違反3とAの死亡との間の因果関係の有無及び生存の相当程度の可能性の侵害の有無

*以下、原告を◇ないし◇、被告を△および△と表記する。

(事案)

A(死亡時78歳)は、医療法人社団である△が開設する△クリニック(以下「△診療所」という。)において、△の代表者兼△診療所の医師である△医師をその担当医師として、平成12年以降、毎年胃がん検診(市が実施する胃がん検診事業(本件検診事業)に係る個別検診方式によるもの)を受診していた。

そして、平成21年以降、△医師は、△診療所において、Aに対し、平成21年エックス線検査(同年10月14日)、平成22年内視鏡検査(同年2月15日)、平成22年エックス線検査(同年12月1日)、平成23年エックス線検査(同年7月16日)を行っていた。しかるに、Aは、平成24年8月2日、肝臓がん(◇らは、胃がんからの転移によるものであると主張する。)により死亡するに至った。

そこで、Aの相続人(妻及び長男、二男)である◇らが、△らに対し、△医師には、上記胃がん検診に関して注意義務違反があり、これにより、Aの死亡又はその生存に係る相当程度の可能性の侵害にかかる損害が発生したなどと主張して、△に対しては、医療法68条、一般法人法78条又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、また、△医師に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して金員の支払いを求めた(◇らは、△らの各損害賠償債務は不真正連帯債務の関係にあるものとして、国家賠償法1条1項該当性も併せて訴求した。)。

第一審(東京地方裁判所平成30年5月26日判決)は、担当医師である△医師において、平成23年エックス線検査の終了後、その診断内容をAに通知して医療機関において精密検査を受診するよう指導すべき注意義務に違反したと認定し、その上で、同違反とAの死亡との因果関係は認められないが、同違反により、Aの生存に係る相当程度の可能性(Aが死亡した平成24年8月2日にはなお生存していた相当程度の可能性)の侵害にかかる損害(精神的苦痛)が認められるとした。

そして、その慰謝料額と弁護士費用が損害額であるとし、不法行為損害賠償に基づくこれらの金員及び遅延損害金の連帯支払い請求の限度で、◇らの請求を認容した。

そこで、◇らはこれを不服として控訴した。

(損害賠償請求)

控訴審での患者遺族の請求額:
遺族3名合計6019万0099円
(内訳不明。ただし慰謝料は1000万円)

(控訴審裁判所の認容額)

認容額:
220万円
(内訳:慰謝料200万円+弁護士費用20万円)

(原審裁判所の認容額)

認容額:
220万円
(内訳:慰謝料200万円+弁護士費用20万円)

(控訴審裁判所の判断)

(注意義務違反1)について

この点について、裁判所は、平成21年エックス線写真からは、内視鏡検査を勧めるような病変はあっても、積極的に胃がん又は胃腺腫を疑うべき所見が得られているとはいえないものであり、また、これを受けた平成22年内視鏡検査における内視鏡写真10からも、直ちに胃がん、又は胃腺腫を疑うべき異常所見が存在したものとは認められないものであると判示しました。

そして、平成22年内視鏡検査の際、平成21年部位において、胃がん又は胃腺腫、前がん病変を含め、◇らの主張するような、病理組織検査を実施すべき病変が、内視鏡検査において認識可能な程度に存在していたことを具体的に裏付けるに足りる積極的な根拠はないとしました。

裁判所は、以上総合すると、たとえ平成23年部位については胃がんにかかる病変であることが確定されているとしても、平成22年内視鏡検査の際、平成21年部位(平成20年部位、平成22年部位、平成23年部位と同一の部位)を内視鏡で観察した場合に、既に病変が、病理組織検査をすべき異常所見として認識すべき状態で存在していたということはできないものというほかはないと判示して、注意義務違反1を否定しました。

(注意義務違反1の2)について

この点について、裁判所は、△医師は、既に穹窿部の画面での確認を終了しており、その後、Aの苦痛に対応して撮影を止めたことがあったとしても、そのことから直ちに、Aに対し、平成22年内視鏡検査が途中で中断し、もしくは十分に精査できなかったことが導かれるものとはいえず、◇らの主張する、説明・告知義務を肯定することはできないとしました。

なお、◇らは、検査の不十分性だけではなく、写真を正確に撮影できなかったことを説明・告知すべきであった旨も主張しましたが、平成22年内視鏡検査において、△医師は、平成21年部位に相当する部分について腫瘤様の病変の有無を観察した結果、それが認められないとの診断をしたものと考えられ、異常所見がなければあえてその部分を撮影しないことにも照らせば、◇らの主張するような写真撮影自体に係る事項をAに説明・告知すべきだったということもできないというべきであるとして、注意義務違反1の2を否定しました。

(注意義務違反2)について

この点について、裁判所は、平成22年エックス線写真は、明らかに胃がん又は胃腺腫を疑うべき所見であるとはいえないものである上、△医師の診断の後に2次読影を行ったb医師会の読影委員会(医師複数名)も、平成22年エックス線写真につき異常所見なしとの診断をしたものであるとしました。また、平成22年部位の大きさ及び性状については、平成22年エックス線写真上、平成20年部位及び平成21年部位と比していずれも有意な変化がないものであるところ、平成22年内視鏡検査において、平成21年部位を内視鏡で観察した場合に、病変が、病理組織検査をすべき異常所見として認識すべき状態で存在していたということはできないと指摘しました。

裁判所は、これらに照らせば、△医師が平成22年エックス線写真につき異常所見なしとの診断をしたことについては、胃がん検診を行う医師に係る医療水準に照らして直ちに不適切であったとまではいえず、◇らが主張するように、△医師が、検査結果と異なる虚偽の記載を行い、胃がん検診の趣旨・目的から逸脱した行為をしたものとして、注意義務違反2の行為をしたものと認定することはできないと判断して、注意義務違反2を否定しました。

(注意義務違反2の2)について

この点について、裁判所は、△医師が平成22年エックス線検査後、胃がん検診票において「所見なし」と記載し、その旨の検査結果(本人控え)をAに交付したものであるとしても、△医師が平成22年エックス線写真につき異常所見なしとの診断をしたことについては、胃がん検診を行う医師に係る医療水準に照らして直ちに不適切であったとではいえないものであるとしました。これに照らせば、△医師が、穹窿部に粘膜異常所見があったという事実自体の告知・説明に係る法的義務までを肯定することはできないと判示して、注意義務違反2の2を否定しました。

(注意義務違反3)について

この点について裁判所は、注意義務違反3は、読影委員会による2次読影への結果が判明した平成23年8月4日以降において認められるというべきであるとしました。

裁判所は、本件検診事業に係る個別受診方式による検査結果の通知等に関する仕組みについて検討しても、同仕組みにおいては、個別受診方式で胃部エックス線検査を実施した医師が、当該エックス線写真の1次、2次読影結果に基づいて精密検査を要するとの所見を得たとき、当該受診者に対し、速やかにその旨を通知すべきであるものとされている旨認定するのが相当であるとしました。そうすると、2次読影結果が判明する前に、法的義務として△医師において注意義務3が発生していたと帰結することはできないとして、平成23年8月4日以降における注意義務違反3を認定しました。

注意義務違反3とAの死亡との間の因果関係の有無及び生存の相当程度の可能性の侵害の有無

この点について、裁判所は、△医師の本件注意義務違反3については、原判決説示の限度で認められるものであるところ、本件胃がんに係る手術が1ヵ月程度早く実施されたとしても、既にその時点において、本件胃がんの血行性転移が生じていた可能性は相当にあったものと考えるのが合理的であり、Aが平成24年8月2日に死亡することを避けられた高度の蓋然性があったとまでは認められないとしました。裁判所は、他方、本件に係る事情の下においては、△医師がこのような義務を尽くしていれば、Aがその死亡の時点(平成24年8月2日)においてなお依存していた相当程度の可能性があったものというべきであるとしました。

以上から、裁判所は、上記(控訴審裁判所の認容額)の範囲で◇らの請求を認めて同旨の原判決は相当であるとして、本件控訴を棄却しました。

カテゴリ: 2026年9月11日
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